「税率引き下げ」と「課税ベース拡大」
最近、法人税率の引き下げが話題になっています。平成26年6月24日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014」いわゆる骨太の方針2014では、「数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す」と明記されました。ただし、法人税率を引き下げるためには財源が必要になります。骨太の方針2014においては、「課税ベースの拡大等による恒久財源の確保をすること」となっており、今回の法人税改革がただ単なる税率引き下げではないことがわかります。
中小企業経営者が気になるのは、どちらかというと「税率引き下げ」ではなく、「課税ベースの拡大等」の方ではないでしょうか。そこで今回は、現時点で発表されている資料から、法人税改革の方向性をご紹介します。
法人税率引き下げの財源、8項目
法人税率を引き下げるための恒久財源となる「課税ベースの拡大」項目については、既に政府税制調査会の中の「法人課税ディスカッショングループ」によって、改革案が出ています。挙げられている項目は、以下の8つです。1. 租税特別措置の見直し
2. 欠損金の繰越控除制度の見直し
3. 受取配当等の益金不算入制度の見直し
4. 減価償却制度の見直し
5. 地方税の損金算入の見直し
6. 中小法人課税の見直し
7. 公益法人課税等の見直し
8. 地方法人課税の見直し(法人事業税を中心に)
かなり具体的に項目が絞られていることがわかります。このうち中小企業に影響がありそうな項目について見ていきたいと思います。
「租税特別措置法」は、産業支援など特定の政策目的のための政策税制が中心となっています。中小企業投資促進税制、雇用促進税制、所得拡大促進税制など中小企業が受ける優遇税制の大半が、この租税特別措置法に規定されています。今後の方向性として、改革案には3つの基準が示されています。
基準1:期限の定めのある政策税制は、原則、期限到来時に廃止する
基準2:期限の定めのない政策税制は、期限を設定するとともに、対象の重点化などの見直しを行う
基準3:利用実態が特定の企業に集中している政策税制や、適用者数が極端に少ない政策税制は、廃止を含めた抜本的な見直しを行う
「欠損金の繰越控除制度」は現在、9年間の繰越が認められており、大企業については、各年度において控除できる欠損金額は所得の8割に制限されています。資本金1億円以下の中小企業については所得制限はありません。今後の方向性としては、繰越控除期間を延長し、あわせて控除上限額を引き下げる見直しを行う、としています。ただし、見直しに当たっては中小企業への配慮が必要、との認識も示しています。
「減価償却制度」については、機械装置等の償却方法が見直しの対象に挙がっています。現在、機械装置等は定額法と定率法の選択適用となっていますが、実務上はほとんどの会社で定率法が適用されています。定率法は初期の償却限度額が大きくなるため、投資直後に大きな税負担軽減が図れるという特徴があり、国際的にもその点が問題視されています。そこで、定率法を廃止して、定額法に一本化する案が提示されています。
法人税を計算する際に、法人事業税や固定資産税などの地方税は、税金でありながら事業に関連して発生するものであることから費用性が認められ、損金に算入されています。しかし、これらの地方税を損金に算入することで国税収入や他の地域の税収に影響を与えることから、地方税の損金算入の見直しが挙げられています。
「中小法人課税の見直し」では、まさに中小企業が直接見直しの対象となっています。現在、法人税法上は資本金1億円以下の企業が中小法人とされており、資本金基準が適用されていますが、実際には資本金が少なくても多額の利益を上げて中小法人向けの優遇税制を受けている企業があり、会計検査院からも指摘がされています。所得金額800万円以下の金額に適用される15%の軽減税率や法人成りによる税負担軽減などについて、見直しの必要があるとしています。
現在、資本金1億円超の法人に対しては、法人事業税において外形標準課税が適用されています。外形標準課税の課税ベースは、付加価値と資本金等で、所得金額に連動しない課税がされています。この外形標準課税について、対象法人の拡大などを検討すべきとしています。
これらの項目は現段階ではまだ案に過ぎず、詳細は年末の税制改正大綱の発表を待たなければわかりませんが、来年の消費税増税と合わせて、こういう動きがあるということを今後の経営判断等の参考にして頂ければ幸いです。