歌舞伎の怪談ジャンル
歌舞伎の怪談ジャンルのはじまりは文化元年(1804)の「天竺徳兵衛韓噺」だったとされます。その後、パッと早変わりで幽霊になったり、姿が消える大仕掛けなど観客が喜ぶような演出が功を奏し、怪談物の歌舞伎は大いに流行しました。今回の企画でも「彩入御伽艸(いろえいりおとぎぞうし)」の小幡 小平次(こはだ こへいじ)・「累淵扨其後(かさねがふちさてもそののち)」の累(かさね)、「東海道四谷怪談」のお岩などの絵が多く展示されていますが、それはとりもなおさず、何度も上演された人気の芝居であった証といえましょう。
下の画像は、自分を殺した妻のお塚と左久郎を、亡霊になった小平治がじーっと蚊帳の上から眺めているところです!
葛飾北斎「百物語 小はだ小平二」(中外産業 原安三郎コレクション/8月1日~8月26日展示)
今回の特別展ではそのシーンは1831年、1848年、1861年、1884年に描かれたものが展示されています。1831年に歌川国貞、1848年に歌川国芳によって描かれた絵では、戸板返しの舞台上の演出を絵でも表現するために、1枚の絵に別の紙が張り付け、仕掛け絵となっています。
歌川国貞(三代歌川豊国) 「三代目関三十郎の直助権兵衛 八代目片岡仁左衛門の民谷伊右衛門 五代目坂東彦三郎のお岩の亡霊/小仏小平亡霊 五代目坂東彦三郎の佐藤与茂七」(太田記念美術館蔵/8月1日~26日展示)
芝居を観てからこの絵を眺めた江戸っ子は「そうそう、この時の芝居の早変わりったらなかったよ。尾上菊五郎はさすがだねぇ」なんて話していたかもしれません。
次のページでは、今回の展示作品から、歌舞伎のほかの魅力いっぱいの浮世絵作品についてお話します。