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革靴におけるフェイシングを解説! 紳士靴のディティール

革靴の鳩目周り、英語でいう「フェイシング」に当たる部分の意匠について解説します。フェイシングをどのような線で飾っていくかで、革靴自体の印象が大きく変わります。アデレイド、スワンネックなどフェイシングの種類についてご紹介します。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

スワンネック:言い得て妙、うねりが特徴の革靴フェイシング

アデレイド、スワンネックなど…革靴フェイシング部分の比較

上の靴が通常の鳩目周りのステッチ、下の靴がいわゆる「スワンネック」ステッチです。どちらが好きかは結構好みが分かれるところですが、同じスタイルの靴だと後者の方が顔立ちが幾分華やかになる傾向にあるのは確かです。

紳士靴のディテールを追ってみるシリーズ。重箱の隅をつつくような感覚がないわけではないのですが、日頃見ているあの靴とこの靴では、ほぼ同じなんだけどなんとなく違うんだよなぁ……的なモヤモヤを解消するのには、いわば避けては通れない関門とも言えると思います。今回は鳩目(はとめ)周り、英語で言えばフェイシング(Facings)の意匠について解説します。

内羽根式の紐靴においては、各鳩目の下で連なり靴の後半分(クオーター)とを隔てる縫い目は、靴の前半部(ヴァンプ)に向かって、緩やかな弧を描いて下降して行くのが一般的です。そうではなく、一番つま先に近い鳩目付近でこの縫い目を、あたかもひらがなの「く」の字の様に一旦鋭角に逆行させた後、下降する意匠を「スワンネック」と称します。紳士靴の主流がシューズ=短靴ではなくブーツであった頃から存在する古いディテールで、形状が文字通り白鳥の首の湾曲に似ているところから名付けられたものです。

この仕様が注目を集めるようになったのは1990年代後半からで、イギリスの靴メーカーであるエドワード・グリーンの工場移転劇が絡みます。それまで保有していた工場をジョン・ロブ(パリ)に売却し、生産拠点を新たに移転した関係で、木型も型紙もそれまでのものと若干変えざるを得なかったのです。その際、キャップトウのチェルシー(Chelsea)など代表的な内羽根式の靴にこのディテールを採用したのがきっかけです。

当時の靴好きからは否定的な意見も聴かれましたが、時が流れるに従い、今では古典的意匠としてすっかり浸透した感があります。ちなみにエドワード・グリーンには、このスワンネックそのものを単なる飾りではなく、靴の前半分と後半分とに分ける縫い目として大胆に採用したモデルも存在していて、結果的にこの意匠を広めたメーカーとしてのプライドを感じさせてくれます。

なお、極々稀にですが、この縫い目そのものが存在しない靴もあります。こちらもブーツの頃からある古いディテールで、非常に清楚な印象に仕上がります。特にプレーントウやストレートチップのような元来はスッキリとしたデザインの靴との相性は抜群。個人的にはこちらの意匠も、もっと人気が出て欲しいのですが。
鳩目の下に縫い目が無い!

今日の紳士靴では極めて稀にですが、鳩目の下に連なる縫い目そのものが存在しない靴もあります。ブーツが紳士靴の主流だった頃から存在する非常に古典的な意匠で、どことなく清楚な印象を有しています。復活してほしいなぁ……

 

アデレイド:ステッチの緩急が強調される革靴フェイシング

通常のものとアデレイドの違い

向かって左(右足)が内羽根式の通常のステッチを有しているものであるのに対し、向かって右(左足)が「アデレイド」と呼ばれる鳩目周りが刳り抜かれた意匠を有するものです。曲線が強調される分、後者の方が少しグラマラスな印象に仕上がるかな?


内羽根式の靴では鳩目廻りは通常、前ページでも紹介した「個々の鳩目の下に連なる縫い目線」と「前半分と後半分とを分ける縫い目線」で囲まれます。それに対し、前半分と後半分とが縫い目で分割されずに一体化し、鳩目廻りのみを独立させ、竪琴の枠のような形状に刳り抜いて設置する場合もあります。このディテールを「アデレイド」と呼びます。

ビスポークの靴(既製品ではなく顧客の要望や足型に応じ一足単位で作成されたフルオーダーメードの靴)では、以前からそれほど珍しくはない意匠でしたが、日本で注目されるようになったのは1993~4年頃でしょうか。ちょうどイギリスのビスポークシューメゾンであるジョージ・クレバリー(George Cleverley)が彼の愛弟子により再興し、ここの既製靴の中にその意匠を含んだものが日本でも売り出されたあたりからだったと記憶しています。

ところで、このディテールをどうして「アデレイド」と称するのか、これが実はハッキリとは判明していません。恐らくはこの仕様を採用し、前述のジョージ・クレバリーのもの以上に人気の高かったジョン・ロブ(パリ)の既製品のクオーターブローグの名に由来すると思われるのですが……なお、このモデルは同社では既に廃盤となっていますが、独特な官能的な表情に今でも根強いファンが多くいるようです。

その一方で、ビスポーク靴のみを取り扱う本家ロンドンのジョン・ロブではこの仕様をこうは呼ばず、”Whole Cut Oxford Laid Under Facings Brogued“ と実に長ったらしい言い方で表しまして(くり抜き部周辺をブローギングではなくてステッチのみで囲むと、最後の単語はStitchedに替わります)、要するに「アデレイド」は、統一された呼称ではない訳です。確かに裁断は、ホールカットに一脈通じるところもありますが……。

アデレイドは英語では“Adelaide”と記し、オーストラリア南東部の大都市名と同じつづりとなります。この都市名は19世紀前中盤の英国王・ウィリアム4世の王妃の名からとられたそうですが、この当時の英国王室の例に漏れず、彼女も生まれは今のドイツでした。元々の名であるアーデルハイト(Adelheid)を英語的にアレンジさせたものです。

今日でもドイツ語圏には多い女性名で、略称はなんとあのハイジ(Heidi)になるのですが、実はこれを更に語源的にほぐしていくと、「高貴な容姿」すなわち「貴婦人」の意味となります。確かにこのディテール、異国から来た貴婦人的なイメージに捉えられなくもないかな? なお、ジョン・ロブ(パリ)に最も縁のあるフランス語ではこの人名は発音と綴りが若干変化しアデライード (Adélaïde)となります。

いかがでしたか? 今回採り上げた2つの意匠は注目されるようになったのがいずれも1990年代からである点が共通で、日本の足元を気にする男性の間でイギリス製の紳士靴への関心が一気に高まった時代とも、実は見事に重なります。それまで殆ど光の当たらなかったこれらのディテール。しかし、彼の国の著名な既製靴メーカーが表舞台に出したことが、ビスポークであれ既製靴であれ、結果的にイギリスの紳士靴全体への関心を高めるのに大きく貢献したのかもしれませんね。

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