「サク飲み」ブーム到来
牛丼チェーンの吉野家は、居酒屋「吉呑み(よしのみ)」の運営を本格化させている。吉野家の施設を利用し、ビールだけでなく枝豆、卵焼き、フライドポテトなどは160円、刺身は310円と低価格のつまみをそろえている。
ファミレスも「サク飲み」に力を入れている。サイゼリヤが100円台のグラスワインを提供する他、ジョナサンなどもつまみとともにアルコールにも力を入れている。
外食産業の現状
一般社団法人日本フードサービス協会によれば、2013年の外食産業のうちファミレスの売上高(前年比)は103.3%、パブ/居酒屋の売上高(前年比)は96.5%となっている。ファミレスは好調だが、パブ/居酒屋は不調ということがデータから明らかだ。2014年に入ってもこの状況は変わらず、ファミレスは相変わらず売上高(前年比)で100%を超えている一方、パブ/居酒屋は100%割れが続いている。内容をみると、ファミレスでは店舗数、客数、客単価のすべてが上昇する一方、パブ/居酒屋はそのいずれもが下降し続けている。ファミレス好調の3つの理由
ファミレス好調には主に3つの理由がある。1つ目は、マクドナルドを始めとするファストフード業界からファミリー層の流入が増加したこと。
2つ目は、低価格メニューだけでなく、”プチ贅沢”が感じられるような好価格帯メニューを用意したこと。
3つ目は、料理そのものが美味しくなったこと。
これらの理由によって、客数も客単価も上昇し、ファミレスは好調を続けている。
居酒屋不調の4つの理由
居酒屋不調にも理由がある。1つ目は、会社で飲みに行く機会が少なくなったこと。
2つ目は、友人・知人で飲みに行く場所が居酒屋から変わったこと。
3つ目は、家庭のある30代以上のお小遣い事情が厳しいこと。
4つ目は、日本人が忙しくなったこと。
会社で飲みに行く機会が少なくなった。お父さんのお小遣い事情は厳しく、かつてのように上司の飲みの誘いは絶対的なものでもなくなった。若者は会社飲みよりもプライベートの時間を大切するようになった。特に居酒屋での飲みには時間がかかるので、プライベートの時間を大切にしたい若者だけでなく、家事も分担するようになったお父さん達にとっても歓迎されないものとなった。また2つ目に関して補足すると、料理に特徴がなく騒がしい居酒屋よりも、料理が美味しく、ゆっくりと話が出来るような店が、20代の若者を中心に好まれるようになってきた。これが居酒屋不調の理由だ。
「サク飲み」ブームの到来
居酒屋飲みはダラダラと時間が過ぎてしまうことが多い。昔は同じ職場の人間と、疲れてクタクタになった心身を慰労するということで飲む機会が多かった。時には無礼講、時には仕事の話で激論になった。しかし、そんな飲み方が好まれないからこそ、若者は会社での飲み、上司との飲みを避けるようになった。また不況が続いたことで、家計もお小遣いも苦しくなったお父さんたちも、飲みに行ける機会が少なくなった。時間もお金もかかり、若者にとっては楽しくもない居酒屋の不調が続くのは当たり前であり、時間を気にすることなく、お金もかけずに、一緒に行った人とゆっくり話しが出来る「サク飲み」がブームになるのは自然な成り行きなのだ。なぜ、吉野家やファミレスでの「サク飲み」なのか?
吉野家での「サク飲み」が流行るのは、低価格であること、飲みの時間が短くてすむことが大きい。マーケティング的には、クーポンなどを使って昼のお客さんを夜に呼び込み、夜のお客さんを昼に呼び込む「昼と夜」の回流を仕掛けることも可能だ。施設も吉野家を使うので、企業としての投資負担も少ない。ファミレスで「サク飲み」が流行るのは、低価格とともに大きな理由がある。それは若者を中心にアルコールを飲む人が減っていることだ。特にビールは顕著だ。居酒屋に行くということは、「とりあえずビール」という”昭和のお決まり文句”にあらわれるように、有無を言わずアルコールを飲まなければならないという無言のプレッシャーがある。今の若者たちは一杯目からソフトドリンクの人もいれば、サワーやワインの人もいる。彼らは仲間で集まり、それぞれのペースで楽しく話すことは好きなのだが、居酒屋はその対局に位置するような存在だ。ファミレスは適度ににぎやかで、安くて、アルコールも強要されず、話もできる。サクっと飲んで帰ることもできるし、長く話もできる。ファミレスで「サク飲み」が流行るのも自然なことなのだ。