ニューポート・ジャズ・フェスティバルは、1954年より始まったアメリカの代表的なジャズ・フェスティバルです。出演ミュージシャンの多彩さと豪華さでも有名なこのフェスティバルには、名演伝説がたくさんあります。

今回ご紹介するのは、1958年に行われたフェスティバルの模様をドキュメンタリー映画にした名作「真夏の夜のジャズ」です。その映画を飾ったキラ星出演ミュージシャンについてご紹介します。

Jazz on a Summer's Day

Jazz on a Summer's Day

この映画は、マリリン・モンローの写真などで有名なカメラマンのバート・スターンによって撮られた、ドキュメンタリー。この海に面したニューポートにおいて、同時開催されたヨットのアメリカズカップの模様や、ミュージシャンだけでなく、当時の観客の模様も大きく映し出される名作です。

バートはカメラマンとしての視点からさすがのアングルで、1958年当時のアメリカの避暑地、その時代感や空気感とでも言ったポートレートを映し出していきます。

劇中、観客へのインタビューで、好きなミュージシャンだと名前が出たのが「ジェリー・マリガン」です。

ジェリー・マリガンは、バリトンサックス奏者で、この当時にあっては、ヒップ(最先端でカッコイイこと)の象徴のように人気のあったミュージシャンです。ビート作家のジャック・ケルアックの小説、「地下街の人々」にも、チャーリー・パーカーと並んでヒップだとされる話が出てくるほどです。

この当時は、ジャズを聴くという行為そのものが、ヒップなものとして認識されていたのだと言えます。

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ジェリー・マリガン「オリジナル・ジェリー・マリガン・カルテット」より「バーニーズ・チューン」

オリジナル・ジェリー・マリガン・カルテット

オリジナル・ジェリー・マリガン・カルテット

映画の中でのジェリーは、ヒップと評されるように、真っ黒なサングラスの似合うクールなルックスで、確かにカッコイイ存在感を発しています。

ジェリーの演奏する楽器、バリトン・サックスは、どちらかと言えばジャズでメインを張るには、重々しいサウンドを持っています。でもその鈍重な楽器からジェリーは、颯爽とした爽やかさを醸し出すことができたのです。

抜群のルックスと相まって、ジャズ界のみならず、当時のアメリカの時代を引っ張る象徴的な存在、スターの一人だったといってよいでしょう。

この「バーニーズ・チューン」は、ジェリーの飛ばした最初の大ヒット曲です。緊張感のあるミステリアスな出だしの部分のテーマと、一転明るいサビ(中間部のテーマのこと)をもつ曲です。

1949年の「クールの誕生」で、マイルス・デイヴィスと共演し、実力を認められた新進気鋭のバリトン奏者だったジェリー。そのジェリーが自分のバンドで圧倒的な存在感を持つに至った1952年の記念すべき演奏です。

聴きやすく、アレンジされた粋な演奏揃いのこのCD。ここは、ぜひ全曲通して聴くことをおススメします。早くより対位法などを取り入れ、ピアノレスという斬新なコンセプトを持ったジェリーが、当時いかに進んだ存在だったかを知ることができます。

昼夜を通して、演奏されるジャズの祭典、ニューポート・ジャズ・フェスティバル。その昼の部といった趣で、日曜の午後のBGMにぴったりの演奏です。

この「オリジナル・ジェリー・マリガン・カルテット」のジャケットで、そのジェリーの隣にいるのが次に紹介するドラマーの「チコ・ハミルトン」です。

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チコ・ハミルトン「ブルー・サンズ」より「ブルー・サンズ」

 

ブルー・サンズ

ブルー・サンズ

この映画には、リハーサル風景も映されていますが、印象的なのが上半身裸で薄暗い宿舎の部屋でリハーサルをするチコ・ハミルトン・クインテットの姿です。

ドラムのチコ・ハミルトンとエリック・ドルフィのフルート、ギター、チェロ、ベースという変わった編成のクインテットです。

その映像では、チコは得意のマレットを使っています。マレットとは、スティックの先に布が巻き付けられた柔らかい音が出るスティックのことです。

汗だらけの練習の後、本番で演奏されるのは彼らの最大の当たり曲「ブルー・サンズ」です。昼間の裸とは違い、パリッとスーツを着込んだ5人がスタンバイして、曲が始まります。

怪しげなムードを持ったこの曲ですが、ここでは最初にテーマをとるフルートのエリック・ドルフィーが一人チューニングが合わないといった、ライブにありがちな大きなミスが……。

でも、そんな重大なミスをもカバーするに余りあるチコのマレットによるドラミングが出色です。そのドラムソロの迫力には、観客もチコの雰囲気に飲まれたかのように引き込まれているのがわかります。

チコが練習でも本番でも用いたマレットは、ジャズではあまり用いられませんが、チコは頻繁に取り入れ、名手としても知られています。

その上、チコはブラシも得意。私の修業時代の師匠の一人、ドラマーの故石川晶氏がチコのブラシはうまいとよく話していたのを覚えています。(石川さんとの話はコチラにも載せています)

この「ブルー・サンズ」は、チコの当たり曲で、ご紹介するオリジナルの吹き込みでは、マルチ奏者のバディ・コレットのフルートをフィーチャーして、大成功を収めていました。

何かと音程で賛否両論の声が多いエリック・ドルフィーとは違い、バディは、フルートもサックスも名人ですので、むずかしいテーマを持つこの曲も、安心して聴くことができます。

映画では、チコのメンバーの練習風景も観ることができます。先ほどの薄暗い部屋で、一人上半身裸で、 チェロ奏者のネイサン・ガーシュマンが練習しています。

聴こえてくる曲は、なんとバッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」。その有名なテーマを暗い中黙々と練習している姿が映し出されます。外では真夏の日差しの中、誰もがフェスティバルに浮かれているさまが……。

裸の子供はコーラを飲みほし、大人は大量のビールに酔っています。その風景とシンクロする孤独な練習風景は、とてもストイックで、印象的なカッコイイシーンです。

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ジャック・ティーガーデン「ディス・イズ・ティーガーデン」より「アフター・ユーブ・ゴーン」

 

This Is Teagarden

This Is Teagarden

夜の部に入り、ようやく真打のルイ・アームストロングの登場となります。ここでのルイは元気いっぱい、ジョークいっぱい、相変わらずの見事な演奏を聴かせてくれています。

そしてここで相方として会場の喝さいを受けているのが、トロンボーン奏者の「ジャック・ティーガーデン」です。

ジャック・ティーガーデンは、ニューオリンズ・スウィング系のトロンボーン奏者。第一人者と言われる卓越した技量と、バンドリーダーとしての資質、そしてヴォーカリストとしての才能にも恵まれた大物です。ルイ・アームストロングとの共演も多く、そのほとんどが名演と言ってもよいくらいの名コンビぶり。

この映画でも、二人の十八番の「ロッキン・チェア」を快調に、余裕をもって演奏しています。二人のエンターテイナーぶりには、会場も笑いと歓声でいっぱい。真夏の夜のジャズを最大限に楽しんでいる様を観ることができます。

「ビッグ・ティー」の愛称で親しまれている、ジャックの代表作ともいえるこの「ディス・イズ・ティーガーデン」では、ジャックのメロディアスなトロンボーンプレイと、味のある歌をどちらも楽しむことができます。全曲名演ぞろいですが、特にテンポの良いスタンダードの「アフター・ユーブ・ゴーン」は聴きもの。

ジャックのトロンボーンは、当時のトロンボーンとしてはスタッカートを多用し、やさしくスイートな音色でありながらも、切れの良いフレージングが特徴。ここでも、アップテンポに乗せて、快調なソロを聴かせてくれます。

そのキレの良いトロンボーンとは打って変わって、ジャックの歌はややいい加減な感じが売り物。適当とは言いませんが、程よく力の抜けた、レイジーなムード。少々お酒が入った感じといえばお分かりいただけるでしょうか。

「君去りし後」(アフター・ユーブ・ゴーン)も、君が去っても、お酒があればなんとかなるさ、と言っているような雰囲気の演奏で、元気をもらえます。

今回の「真夏の夜のジャズ」はいかがでしたか?ご紹介できなかった中にも、名場面は沢山あります。

例えば、アニタ・オデイ(女性ヴォーカル)の名前を一躍メジャーに知らしめた有名な熱唱。ジミー・ジュフリー(テナーサックス奏者)の横顔がスタン・ゲッツ(同じく有名なテナーサックス奏者)そっくりだった事。

ビッグ・メイベルやマヘリア・ジャクソン(どちらも女性ヴォーカル)の歌う時のマイクの遠さにビックリ(相当声が通るのでしょう)した事。若干の場違い感を感じたのか、遠慮がちに「スウィート・リトル・シックスティーン」(全米第二位の大ヒット曲)を歌うチャック・ベリー(ご存知ロックンロールの創始者)。

そして、そのロックン・ロールの王様のバックでドラムを叩いているが、なんとスウィングドラムの大御所パパ・ジョー・ジョーンズ(カウント・ベイシー楽団でオール・アメリカン・リズム・セクションと呼ばれた名手)だった事。そのパパ・ジョーが意外にロックンロールにノリノリな事などなど、沢山あります。

ドキュメンタリー映画としても、ジャズライブとしても一級品なこの映画を、夏の日の夕涼みに楽しんでみてはいかがですか!それではまた、次回お会いしましょう。

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