世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

アントニオ・ガウディの作品群/スペイン(4ページ目)

海の波や動植物の色彩・曲線を積極的に取り入れて独自の世界を切り拓いたモデルニスモの旗手、ガウディ。一見派手なその造形に、人と環境に対する温かい思いが込められている。今回は、サグラダファミリアの生誕のファサードやカサ・パトリョ、グエル公園をはじめとする7作品を登録したスペイン・バルセロナの世界遺産「アントニオ・ガウディの作品群」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

いまも貸し出されている集合住宅、カサ・ミラ

カサ・ミラの屋上

カサ・ミラの屋上からパティオを見下ろす。スタジオ・ジブリのアニメに出てきそうな兵士のオブジェは、ローマ兵の兜を象っているのだとか

カサ・ミラのファサード

波のような壁面からなるカサ・ミラのファサード

1906~1910年にかけてミラ夫妻の依頼で建てられた邸宅で、夫妻は3階に住んで他のフロアを貸し出していた。現在も4棟ほどが一般の住居として使用されており、それ以外の場所が公開されている。

まず、特異なのがその外観だ。波打つ壁面で構成されたファサードは単に曲線であるというだけでなく、左右・上下ともに非対称で、バルコニーの形はひとつとして同じものがない。海の中にたゆたうサンゴのような、あるいは世界遺産『メサ・ヴェルデ国立公園(アメリカ)』や『バンディアガラの断崖[ドゴン人の地](マリ)』のような岩窟住居を思わせる。地元の人たちが名づけたという「石切り場(ラ・ペドレラ)」の俗称も理解できる。

 

兵士のオブジェ

カサ・ミラ屋上のオブジェ

内部は当時の住居が再現されているほか、博物館が常設されている。住居には外観や屋上、パティオのような新奇さはないが、曲線で構成された内部空間と、当時の上流階級の生活の様子がわかる内装は興味深い。

屋上はカサ・パトリョ、グエル邸と同じように曲線で構成されており、不思議な形をした煙突オブジェが見られる。

 


イスラム・キリスト教建築の融合、カサ・ビセンス

カサ・ビセンス

ガウディがはじめて独立した建築物全体のデザインを担当したカサ・ビセンス。世界各地のデザインの影響をそこかしこに見ることができる

カサ・ビセンスのファサード

ムデハル様式の影響が顕著なカサ・ビセンスのファサード

1883~1888年の建設で、30代前半のガウディが手掛けた初期の作品。マヌエル・ビセンスの依頼により造られたもので、塔や柱・出窓・異なる色のレンガの並べ方など、随所にイスラム建築の影響が見られる。

15世紀にレコンキスタ(国土回復運動)が完了するまでスペインはイスラム教国の支配下にあった。このためイスラム文化の影響が色濃く、スペイン成立後にはイスラム建築とキリスト教建築が融合してムデハル様式と呼ばれる独自の建築様式が誕生した。

そして大航海時代以降、新大陸の文化を取り入れて、建物に貝殻や魚といった海産物の彫刻をあしらうようになる。ポルトガルのマヌエル様式であり、スペインのイザベラ様式だ。また、花や植物紋様は古くからイスラム建築で多用されていたし、19~20世紀になるとアールヌーヴォーに取り入れられて大流行した。そのアールヌーヴォーがスペインに渡って花開いたのがモデルニスモだ。

カサ・ビセンスはこれらの建築様式の影響を多分に受けており、その後のガウディのデザインが突然変異のように誕生したわけではないことをよく表している。

 
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