世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

アントニオ・ガウディの作品群/スペイン(3ページ目)

海の波や動植物の色彩・曲線を積極的に取り入れて独自の世界を切り拓いたモデルニスモの旗手、ガウディ。一見派手なその造形に、人と環境に対する温かい思いが込められている。今回は、サグラダファミリアの生誕のファサードやカサ・パトリョ、グエル公園をはじめとする7作品を登録したスペイン・バルセロナの世界遺産「アントニオ・ガウディの作品群」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

計画都市の未完の教会、コロニア・グエル教会

コロニア・グエル教会

コロニア・グエル教会。1908年に建設がはじまり、地下礼拝堂のみが完成。1914年に建設は中断され、上部構造が造られることはなかった。写真ではわかりにくいが、光の演出が見事

コロニア・グエル教会

ガウディは感覚的にデザインを行うため設計図を用いなかったが、自然界の曲線を合理的に再現するため直線で曲線を描く双曲放物面など数学的なアプローチも導入していた

コロニア・グエルは、グエル氏が創設した繊維工場を中心とする計画都市。L字型の土地のまん中の角に工場を建て、両端に学校と教会を置き、その間に住宅や劇場などの施設を建設した。

このコロニアのコンセプトもやはり「自然と芸術」。L字の周囲は緑豊かな森林で、内部の建築物は複数の芸術家に設計させて、日頃から自然と芸術に接することのできる健康的な空間を創出した。

その中で、教会の設計を担当したのがガウディだ。地層か採石場のような壁面、不均一な柱、骨のようなアーチを組み合わせた天井、チョウや甲虫の背を思わせるステンドグラス、巨大な貝のオブジェ……大きな建物ではないが、ガウディの世界観が凝縮されている。

 

コロニア・グエル教会のイス

機能美にあふれた教会のイス。こちらもガウディのデザイン

中に入ってまっ先に思い浮かんだのがインドの世界遺産「アジャンター石窟群」と「エローラ石窟群」。この教会によく似た天井構造を持つ石窟があるのだが、それらの石窟も何かの動物の胎内を思い起こさせるものだった。実際ヒンドゥー教ではこの世を「神の子宮」と捉えている。

この教会で感じたのも「神の胎内」のイメージ。ガウディは敬虔なカトリック信者だったが、「この世界のすべては神の恩寵である」という思いが聞こえてくるようだ。

世界遺産に登録されているのは教会だけだが、エスピナル邸、ソレ・ダ・ラ・トレ邸、工場跡など、コロニア・グエル全体の都市構造が見所でもあるのでお忘れなく。

 

古代-中世-未来をつなぐ不思議空間、グエル邸

グエル邸の中央サロン

グエル邸の中央サロン。左上がパイプオルガン、左下が黄金の礼拝堂の入口となる黄金の扉。ここで礼拝や音楽会が催された

ドラゴンのオブジェ

ドラゴンのオブジェ

1886~1890年にかけて建設された作品で、30代のガウディが造った初期の傑作として知られている。グエル別邸に続いてグエル氏が依頼した私邸で、氏はこの邸宅に満足し、しばらくの間、ここで生活したという。後期の作品ほど極端な曲線は用いられていないが、その分私邸にふさわしい落ち着いた豪華な造りになっている。

たとえば門。直線と曲線が見事に融合した美しいファサードで、鉄を加工することで重厚かつ柔らかい印象を与えている。この門は中央に座すドラゴンから、ドラゴンゲートの通称を持つ。

エントランスは大理石と絨毯、鉄を組み合わせた華麗な空間。2階は一転して木を多用した造りで、ルネサンスやバロック期の重厚な格天井を思わせる。

 

グエル邸の地下

グエル邸の地下。レンガ造りのミニマルな空間

中央サロンは星々をあしらった天井、黄金の礼拝堂、光り輝くパイプオルガン、神の物語を描いた絵画と、まるで礼拝堂。30分ごとに演奏されるパイプオルガンの音色が神々しさを高めている。

屋上の煙突(通風口)を利用した不思議なオブジェは未来都市に迷い込んだような造形。一転して地下の厩舎やワインセラーは古代ローマ遺跡を思わせるレンガ造り。全体として、古代-中世-未来をつなぐ不思議な建物という印象だ。

 

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