新浪剛史氏は1981年三菱商事入社、2002年よりローソン社長をつとめ2014年からは会長となっている。ローソン社長として11年期連続の営業増益を達成するなど経営手腕には定評がある。また安部政権においては産業競争力会議のメンバーもつとめている。
増加するプロ社長の存在
コンビニから飲料へ。業種は全く違うのだが、プロとしての経営手腕を見込まれてのことだ。日本の企業も年功序列や終身雇用制度が徐々に崩れていく中で転職が当たり前になっていった。しかし一般社員と比べて、40代以上の幹部職、経営者の転職はまだまだ少ない。なぜなら幹部職や経営職は長く勤務した社員のゴール的な存在、つまり名誉職であり、御褒美と考えられていることが多いからだ。それがここ最近変化し始めた。経営者としてのプロフェッショナルな能力が求められ転職するケースが増えているのだ。今年4月、日本コカ・コーラ社長だった魚住雅彦氏が資生堂の社長に就任した。また6月には日本マクドナルド社長だった原田泳幸氏がベネッセホールディングスの会長兼社長に就任した。
以前より海外ではプロフェッショナルの経営者は当たり前だ。能力を請われ、異業種に転職することも珍しいことではない。日本も高度経済成長期が終わり、バブルがはじけ、市場をグローバルで考えなければならなくなり、混沌とした時代になった。この状況を切り抜けるためには、世界的な経営者と互角に戦えるプロフェッショナルな経営能力が必要となってきている。それが新浪氏、魚住氏、原田氏などプロ経営者が増えて来た理由の一つなのだ。
プロ経営者が誕生させた佐治社長の眼力
新浪氏がローソン会長からサントリー社長になる決定をした佐治信忠社長。長く働いている役員や社員の中から異論が出ることも当然覚悟していただろう。創業家一族だから、そうではない企業よりもやりやすかった面は否定出来ないが、それでも簡単なことではない。外部から経営者を招く判断を社内で了承させるためには、現経営者が役員や社員から信頼されていなければ出来ない。役員や社員が信頼を寄せているからこそ、その決定が企業の将来を明るくする可能性があるものと認められたのだ。佐治社長は単に創業一族出の社長ということではない。今年初頭には1兆円を超える金額で米蒸留酒最大手ビーム社を買収するなど経営手腕を発揮している。佐治社長が名ばかりの創業家社長ではなく経営力のある社長だったため、外部から社長を招くという判断が成立したのだ。
経営者の異業種への転職は一般化するのか
プロ幹部職も増えるのか
今後、経営者の異業種への転職は一般的になるのだろうか。その行方を握るのは、サントリー社長となる新浪氏、ベネッセ社長兼会長の原田氏、資生堂社長の魚谷氏の業績にかかっているといっても過言ではない。原田氏に関して言えばマックからマックへと言われたように、すでに一度アップルからマクドナルドへ業種を超えて転職している。マクドナルドを退く前の数年間はちぐはぐな経営戦略になってしまったが、就任期間トータルでみれば悪くない評価を得られている。メディアからも取り上げられやすい3人がどのように活躍するかで、日本の企業経営にプロ経営者の存在が浸透するのかどうかが変わってくるのではないだろうか。
プロ経営者の次は、プロ幹部職。そして未来は。
プロ経営者の転職が一般的になれば、次はプロ幹部職の転職時代が来る。例えばマーケティングにおいて、世界を見ればCMO(Chief Marketing Officer)という役割がある。企業の広告、PR、ブランドを司る重要な役割だ。ただアイデアや戦略を決めるのではなく予算も含めての全責任の決定を担うのがCMOだ。徐々に日本でもCMOを設ける企業が増えているが、まだまだ少ない。広告の仕事をしていると、現場でOKだったものが宣伝部長で覆ったり、宣伝部長でOKだったものが役員会議で覆ったりする。そもそも決定権を持つ人材が最初から関わっていれば、CMを作り終わった後や、プロモーションの制作が進行している中で決定が覆ることはなく、ムダな時間、労力、コストがかかることもない。しかし広告、PR、ブランドはプロフェッショナルな知識とノウハウが必要な反面、アイデアレベルであれば誰でも意見を出しやすい側面を持つ。マーケティングにおいては、これから日本でもプロフェッショナルの能力を持ったマーケッターがCMOとして経営と密接に関わりながら活躍していくようになるだろう。
CMOだけではない。CIO(Chief Information Officer)、CFO(Chief Financial Officer)、COO(Chief Operating Officer)、CTO(Chief Technical Officer)など幹部職クラスが業種を問わず転職する時代はもうすぐそこまで来ている。
将来ますます高齢化社会は進む。一方では人口の減少も進む。日本経済を活性化させる方法の一つは年齢に関係なく能力を発揮出来る社会になることだ。その意味においても年齢や勤続年数ではなく能力が重視された人材流動化は日本全体のためにもなるはずなのだ。