小野田龍之介 91年神奈川生まれ。幼少から学んでいるダンスと圧倒的な歌唱力を武器に、ミュージカルを中心に活躍中。近年の出演作品は、『ウェストサイド物語』『三銃士』『ミス・サイゴン』『メリー・ポピンズ』など。11年のシルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンサート・コンクールではリーヴァイ特別賞を受賞。『ラブ・ネバー・ダイ』の後には『レ・ミゼラブル』への出演が控えている。(C)Marino Matsushima
精神的・肉体的な苦しさと戦った『ウェストサイド物語』
――小野田さんは劇団四季の『ウェストサイド物語』(2016年)にも出演されたのですね。
「ある時、“劇団四季の作品に興味はありませんか”とお尋ねいただいて、“僕はたくさん拝見して影響を受けましたし、機会があればもちろんやらせていただきたいです”とお答えしたら、“一度歌いに来てください”ということになったんです。『オペラ座の怪人』の“All I ask of You”と『美女と野獣』の“愛せぬならば”を歌ったところ、“近々『ウェストサイド物語』をやるのですが、もし興味があるようでしたらトニー役のオーディションを受けてみませんか? 演出家が海外から来て、がらりと演出が変わります”と言われました。
お声をかけていただき嬉しい反面、一瞬考えましたね。『ウェストサイド物語』にしても『オペラ座の怪人』にしても、世界各地で声楽にたけた俳優さんがなさっている演目ですが、僕は専門的に音大に行ったわけではないので、できるのかな、と。でも、チャレンジはしてみようということで、“やってみます”とお答えしました。(準備をして)オーディションで“マリア”を歌ったところ、アメリカ人の演出家からOKをいただきました。
『ウェストサイド物語』と言えばミュージカルの原点ですから、携われたことは大きな財産になりました。やってよかったと思います。ただ、苦しかったですね。トニー役の先輩から“トニーは肉体的にも精神的にもすごい苦しい役だ”と聞いていて、覚悟はしていたのですが」
――苦しいというのは、どの点が?
「人種差別という背景があるなかで、トニーとマリアの恋は誰にも認めてもらえず、孤独なんです。祝福されない恋ってこんなに苦しいんだな、と人生勉強をさせていただきましたね。それにトニー役として一度ならず、(公演期間中)何度も何度も撃たれて死ぬのは、やっぱりつらかったです。愛するマリアが死んだと思ってたら生きていた、喜びが込み上げた瞬間に撃たれてしまうわけですから。彼女の腕の中で死ねるのはトニーとしては幸福だけど、愛する人の涙を見ながら死ぬというのはね。やっぱり祝福されない愛はやめようと思いました」
キム役との関係性を大切に演じた『ミス・サイゴン』
――『ミス・サイゴン』(2016年。観劇レポート、舞台写真はこちら)ではクリス役に挑まれました。
「初演からエンジニアを演じている市村(正親)さんとご一緒出来、これも大きな財産になりました。稽古に入る前は何年も上演されてきた作品に加わるということでものすごく緊張しましたし、“覚えるの遅いな”とか思われたらどうしよう、と心配でしたが、有難いことにカンパニーには以前ご一緒して気心の知れた方ばかりだったし、楽しくお稽古できました。この年から来日する演出補の方が変わって一から作っていったので、タイミング的にも良かったのかなと思います。
韓国から来たキム・スハさんとの共演も、僕にとってはクリス役を作るのに大きな役を果たしていました。『ミス・サイゴン』はアメリカ人とベトナム人の話ですが、僕と彼女も日本人と韓国人という“異国”感があるなかで、初めて歌合せをした時に、“彼女にわかるように言葉を伝えていこう”と思えたんです。(出身国が違うからこそ)丁寧に相対する。これを大事にしよう、と思いました。キムさんと共演させていただけたこともすごく大きかったです。」
――キムとの生き別れを描くシーンは絶唱と絶叫がないまぜになっていて、喉への負担も大きそうな役ですね。
「絶唱は多いですよね。『ミス・サイゴン』では、とにかく音楽性を大事にしようと思って挑みました。台詞にすることも叫ぶのも簡単だけど、まずは音楽の中でそれを表現できないかなとチャレンジしていって、その中であふれ出てしまったものだけ“叫び”にするよう心掛けましたね」
『メリー・ポピンズ』での久々の三枚目役
――『メリー・ポピンズ』(2018年。観劇レポート、舞台写真はこちら)では一転、コミカルなロバートソン・アイを演じました。
「非常に楽しんでやらせていただきました。『Love Chase!!』などもそうでしたが、僕はこれまで“色物”の役をやらせていただく事が多かったです。しかし、ここ数年は“大道”の役が続き、ここでまたそういう役を挟むのもいいかなと思ったんです。ダブルキャストが芸人さんのもう中学生さんということもあって、“そういう発想もあるのね”と驚いたり、非常に刺激的でしたね。英国からプロデューサーのキャメロン・マッキントッシュさんやオリジナルの演出家も来てくださり、本当に大作でした。その時のメリー・ポピンズ(濱田めぐみさん、平原綾香さん)とは今度『ラブ・ネバー・ダイ』で夫婦役を演じるので、運命も感じつつ、楽しく大切に演じていきたいと思っています」
――小野田さんは今、27歳ですか。
「はい、27になりましたね」
――まだ20代ですのに、なんと落ち着いていらっしゃることか(笑)。
「よく言っていただきますが、実際は全然落ち着いていませんよ(笑)」
――『Love Chase!!』の時に、演出家の玉野和紀さんが“まだ若いから30手前で主役をできるようになればいいんだよ”とおっしゃっていましたが、既に数々の大役をこなしていらっしゃいます。ご自分ではどう感じていらっしゃいますか?
「僕自身は主役願望があるわけではないんです。ただ、子供のころからこの仕事をやっていると、まだまだ若いという目で見られがちだったのが、がらりと変わったのが、『ミス・サイゴン』でした。クリスをやったことで、やっと大人の俳優として見ていただけるようになったと感じた部分はありましたね。
主演だから脇だからということは関係なく、とにかくいい役、いい作品とたくさん出会っていきたいし、それは役者の力と器だと思います。そこをしっかりと磨きつつ、今後も必要とされていく俳優であり続けたいと思います。若いうちからいろいろな役を任せていただいている、それはきっと特別な、有難いことだと思うので、大切に時間を過ごしていきたいですし、次に出演する『ラブ・ネバー・ダイ』しかり、これから出会っていく作品と向き合っていきたいです」
”いつか”到達したい頂点
――以前、目標とする役として挙げていたのが……。
「『シラノ』でしょ、それは変わらないです。市村(正親)さんもシラノをされているじゃないですか。やはり僕が憧れる俳優さんは僕の憧れる役もなさっているんだなと思いますけど、やっぱりいつか、シラノを素敵に演じられるようになりたいですね。若くしてやりたいとは思っていなくて、歳を重ねた時に、です。もちろんファントムとかいろいろやりたい役はありますが、そのなかでもシラノって独特ですよね。一つの頂点というか、歳を重ねた時の目標として掲げて、そこに向かっていろんな役をやっていきたいです。
俳優って2時間、3時間の中で壮絶なドラマを演じる職業ですが、たくさんのドラマ、人生を演じていって、歳を重ねた時にはかない役をやりたいという意味で、シラノに憧れていますね。でも、最近もう一つ、いい役に出会ったんです、(『生きる(特集記事はこちら)』の)渡辺勘治という」
――おっしゃるんじゃないかと思っていました(笑)。
「思ってました?(笑)。結局は市村さんや鹿賀(丈史)さんのような俳優になっていきたいんだと思います。シラノをやりたい人は渡辺もやりたいんだと思うんですよ。ああいった、はかない一人の男の人生を演じるというのが、僕の目標です」
*小野田さんの『ラブ・ネバー・ダイ』ラウル役についてのインタビューはこちら(←リンクを貼ります)
*次頁で2014年『Love Chase!!』稽古中の小野田さんへのインタビューをお届けします!