アートや文学の香り漂うラインナップが魅力的な、今秋のミュージカル界。観劇後はモチーフとなった絵画の実物を観に、美術館へ出かけたくなるかも? 舞台を起点に、“芸術の秋”を堪能しましょう!

*9月開幕の注目!ミュージカル*
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』9月7日開幕←入野自由さんミニ・インタビュー&観劇レポートUP!
『マハゴニー市の興亡』9月9日開幕←山本耕史さんミニ・インタビュー&観劇レポートUP!
『"INVITATIONS" VOL.3ミュージカルトーク&コンサート』9月16日開催←イベント・レポートUP!
『壁抜け男』9月27日開幕←飯田洋輔さんミニ・インタビュー&観劇レポートUP!

*10月開幕の注目!ミュージカル*
『イチラス!』10月3日開幕←観劇レポートUP!
『キンキーブーツ』来日版 10月5日開幕←観劇レポートUP!
『井上智恵コンサート』10月15日開幕←観劇レポートUP!
『CONTACT-コンタクト』10月15日開幕←観劇レポートUP!
『イン・ザ・ハイツ』10月16日開幕←キム・ナムホさんインタビューUP!
『ミス・サイゴン』10月19日開幕←観劇レポートUP!
『スカーレット・ピンパーネル』10月19日開幕←観劇レポートUP!

*東京国際映画祭で上映の注目ミュージカル映画*
『三人姉妹』10月26、29日上映←レポートUP!

*AllAboutで特集のミュージカル*
『バイオハザード』出演・平間壮一さんインタビュー観劇レポートを掲載!
『ロミオ&ジュリエット』出演・大野拓朗さんインタビューを掲載!
『マーダー・バラッド』出演・平野綾さんインタビューを掲載!
『キャバレー』出演・小池徹平さんインタビューを掲載予定!

『ミス・サイゴン』

10月15~18日(プレビュー)、10月19日~11月23日=帝国劇場 その後岩手、鹿児島、福岡、大阪、名古屋で上演
『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

【見どころ】

89年にロンドンで初演、日本では92年に初演以降再演を重ねてきたアラン・ブーブリル、クロード・ミッシェル=シェーンベルク(『レ・ミゼラブル』)の代表作が、2年ぶりに上演。ベトナム戦争末期のアメリカ軍兵士とベトナム人女性の出会いを起点に、引き裂かれる恋、母子の情愛、夢と現実、戦争による負の遺産といったテーマが壮大なスケールで描かれます。

ベトナム琴(ダン・チャイン)的音色が効果的に差し挟まれる美しいデュエット「サン・アンド・ムーン」から、コミカルで物悲しい「アメリカン・ドリーム」、胸を打つ糾弾のナンバー「ブイドイ」まで、楽曲も充実。今回の上演ではナイトクラブの経営者で、渡米を夢見続けるエンジニア役を初演から演じ続けてきた市村正親さんがファイナルステージを宣言されており、渾身の舞台は必見!またトリプルキャストとして、駒田一さんとともにダイアモンド・ユカイさんが同役を演じ、ヒロインのキム役には笹本玲奈さん、昆夏美さんとともにロンドン版で同役を演じたキム・スハさん、アメリカ兵クリス役には上野哲也さんとともに小野田龍之介さんといったフレッシュ・キャストが加わる予定。力強い人間ドラマが期待されます。

【観劇レポート
戦争の悲惨さをリアルに体感させる渾身の舞台】

『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

1幕「ドリームランド」に2幕の「バンコク」と、盛り場シーンの出演人数が増え、さらにリアリティが加わった今回の公演。幅と奥行きのある舞台のそこここで、メインキャストばかりでなくすべての人々が生々しく存在、その中で起こるキムの悲劇が決して唯一ではなく、当時数多く起こっていた幾多の悲劇の一つであることをうかがわせます。
『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

この日のキム役キム・スハさんはロンドン版に出演経験のある新人で、歴代の(日本版)キム役の中でも“少女”のたたずまい。可憐な歌声で、戦禍を逃れて都会に上り、愛を知り愛を与える女性へと成長してゆく役柄に取り組んでいます。また彼女を拾うナイトクラブのオーナー、エンジニアをこの日演じたダイアモンド・ユカイさん(・は星のマーク)は以前にもロックミュージカル『ROCK TO THE FUTURE』でお見掛けしたことはありましたが、今回は初の本格的ミュージカル。念願だったというエンジニア役に真摯に体当たりされている姿に、熱いものを感じます。ロックミュージシャンとして培ってこられたものをエンジニア役にほどよく転換、特に序盤の華やぎと軽やかさが小気味いい。
『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

キムと恋に落ち、彼女との別離によって心に深い傷を負う米兵クリス役をこの日演じたのは、小野田龍之介さん(過去のインタビューはこちら)。もともとセンス抜群のダンサーとして知られていましたが近年はボーカリストとしても注目され、『ウェストサイド物語』(劇団四季)トニー役も経験。今回の大役も安定した力強い歌声でクリスの苦悩、希望、絶望を表現しています。また今回は以前の出演者が異なる役で出演しているのも話題。キム役経験者の知念里奈さんが演じる優しさあふれるエレン、クリス役経験者の藤岡正明さんのまっすぐなトゥイによって、物事を善悪に二分することの困難さが際立つ舞台となっています。また、クリスの同僚ジョン役の上原理生さんは、今回が3演目。アメリカの良心の呵責を凝縮させた「ブイドイ」を時に音符にとらわれず熱唱、歌詞内容を観客の胸に焼き付けます。
『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

『ミス・サイゴン』写真提供 東宝演劇部

ベトナム戦争から半世紀以上が過ぎ、日本の若い世代の中にはベトナムと言えば「おしゃれ雑貨とグルメの国」というイメージが真っ先に来るかもしれない中で、私たちはこの戦争をどう記憶し、伝えてゆくべきなのか。今も世界各地で紛争が絶えない中で、名もない人々のドラマを通して「戦争の悲惨さ」を伝えたい、とする出演者、関係者たちの心がひしひしと感じられる、渾身の舞台となっています。

スカーレット・ピンパーネル

10月19~26日=赤坂ACTシアター、10月30日~11月7日=梅田芸術劇場メインホール、11月24~29日=東京国際フォーラムホールC
『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

【見どころ】

97年にブロードウェイで初演、日本では08年に宝塚歌劇団によって初演されたフランク・ワイルドホーンの傑作が、男女版キャストで初登場。フランス革命によって処刑が横行する恐怖政治下のパリで、無実の人々の命を救うべく立ち上がった「ピンパーネル団」の活躍が、ワイルドホーンの躍動感溢れる音楽に彩られ、描かれます。

主演は日本を代表するミュージカル俳優の一人、石丸幹二さんと、宝塚版初演で主人公を演じた安蘭けいさん。強靭な喉と体力を要すると言われるワイルドホーン作品への出演歴があり、彼の信頼も厚いお二人だけに、正義と愛のために立ち上がるパーシーとその妻を力強く演じてくれそう。敵役の石井一孝さんはもちろん、ピンパーネル団の同志たちを演じる若手スターたちの華やかな存在にも注目です。今回は新曲2曲が加わる他、宝塚版に書き下ろされた「ひとかけらの勇気」が演出家ガブリエル・バリーの手で歌詞、タイトルを一新。日本ならではのオリジナルな『スカーレット・ピンパーネル』に期待が集まります。

【『スカーレット・ピンパーネル』観劇レポート
“心躍る冒険活劇”にして“大人のラブ・ストーリー”】

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

英国人貴族パーシーがフランス人女優マルグリットと結婚、二人の幸せの絶頂と隣国フランスで次々と無辜の貴族たちが処刑されてゆく理不尽な光景を対比しながら、本作は始まります。この両者はパーシーが知人の貴族の死を知ることで交錯し、彼は愕然としながら「悲惨な世界のために」(かつて宝塚版のために書き下ろされたナンバー「ひとかけらの勇気」)を歌い始めます。今回の演出家、ガブリエル・バリーさんによる新歌詞では、この状況に背中を向けていていいのか、自分には何ができるのかと主人公が自問自答する内容となっており、歌う石丸幹二さんの、ためらいつつも一つの決意へと繋がってゆく理知的な歌唱も手伝って、現代世界へのメッセージ色が強烈。今回の日本版『スカーレット・ピンパーネル』の根底にあるものが、しっかりと序盤で提示されます。
『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

パーシーと仲間たちはスカーレット・ピンパーネル団を結成、剣の技を磨き(川口竜也さん演じる執事がめっぽう強い!)、旅立ちますが、その過程で鮮やかな早変わりを見せるなど、前半は冒険活劇としての娯楽性もたっぷり。それが次第にパーシーとマルグリット、そしてフランス政府全権大使ショーヴランの三角関係を主軸としたドラマにスライドしてゆき、石丸さんが達者な演技で“器用だが女心はわかっていない”パーシーを、安蘭けいさんが終盤の華麗な立ち回りも当然と思わせるほどの行動力の持ち主マルグリットを、石井一孝さんが信念に基づいて冷静に行動しつつも、彼女への執着から時に感情的なほころびを見せるショーヴランを肉厚に演じることで、3人の心理的“攻防”から最後まで目が離せません。
『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

またもう一つ今公演の特徴といえるのがロベスピエール役の存在感で、2幕冒頭で彼が歌う新曲「新たな時代は今」では、夢の終わりに気づきながらも、自らが進める恐怖政治の正しさを強引なまでに主張。これが作曲家ワイルドホーン得意の、アグレッシブかつダークな曲調で展開します。筆者の鑑賞日にはダブルキャストの一人、佐藤隆紀(LE VELVETS)さんが圧倒的な声量でこのナンバーを一抹の哀しさを含ませながら輝かしく歌い、一曲にして、表面的に人間を断罪することの難しさを訴え、本作のもう一つの要となっています。
『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:渡部俊介

欲を言えば、上口耕平さん、相葉裕樹さんら、姿が爽やかであるだけでなく、腕のあるメンバー揃いのスカーレット・ピンパーネル団にももう少し“しどころ”があればという気も。ゆくゆく“続編”や“スピンオフ”が企画された際には……などと妄想も膨らむほど、魅力的な要素の詰め込まれた日本版『スカーレット・ピンパーネル』です。

壁抜け男

9月27日~11月13日=自由劇場

『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

【見どころ】

97年にパリで開幕、99年に日本初演、03年にはブロードウェイでも開幕した作品。平凡な公務員がある日突然“壁を通り抜け”られるようになり、人生が一変するというマルセル・エイメの小説を、『シェルブールの雨傘』のミシェル・ルグランの流麗な音楽で彩ったミュージカルです。フランスでは大会場での上演を前提としたコンサート的な作りのミュージカルが多い中、演劇的な骨格をしっかりと持って生まれたこの“王道ミュージカル”は、フランス現代劇を出発点とする劇団四季にぴったり。“壁抜け”という奇想天外な主人公の特技は、ファンタジーの枠にとどまらず、実は原作執筆時(刊行は43年)のナチスへの抵抗を象徴しているとの説もあり、シンプルながら実に味わい深い作品です。

【デュティユル役候補・飯田洋輔さんミニ・インタビュー】
飯田洋輔undefined福井県出身。04年オーディションに合格し『ジーザス・クライスト=スーパースター』で初舞台。『美女と野獣』『キャッツ』等で活躍。「いつも“お客様に届いているかな”と思うので、終演後、お客様の笑顔が見えるととても嬉しいですね。今後は経験を積み重ねて、深みのある俳優を目指したいです」と言う。(C)Marino Matsushima

飯田洋輔 福井県出身。04年オーディションに合格し『ジーザス・クライスト=スーパースター』で初舞台。『美女と野獣』『キャッツ』等で活躍。「いつも“お客様に届いているかな”と思うので、終演後、お客様の笑顔が見えるととても嬉しいですね。今後は経験を積み重ねて、深みのある俳優を目指したいです」と言う。(C)Marino Matsushima

――『壁抜け男』という作品に初めて触れたのは?

「高校2年の時、故郷の福井で行われた全国公演の舞台を観たのが初めてでした。当時すでに歌の勉強を始めていたので、なんて素敵な音楽なんだろう、と魅了され、すぐにビデオを購入。繰り返し観て歌は既に頭の中に入っていたので、12年に初めてこの役を演じた時、楽譜を見て“こうなってたんだ、こういう音楽だったんだ!”と思うことしきりでした(笑)。
『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

でも実際に歌ってみると、大変な作業が伴いまして。というのは、オリジナル版はフランス語で、リエゾンで歌詞がずっと繋がってゆくのが特色ですが、日本語は“~が““~で”といった具合に、音節ごとに明確に区切られた言語ですよね。その区切りとメロディの途切れるポイントが必ずしも合致するわけではなく、例えば冒頭、僕が演じるデュティユルが手紙をタイプする場面で、“お怒り誠にごもっとも、でも”と歌うくだりがあります。“でも”ということはそこに感情の変化があるわけですが、リズム的には“でも”までが一続き。感情の変化を活かそうと思って“でも”の前に短くポーズを置こうとすると、音楽部から“それ以上(間が)空いたら音楽が崩れます”と指摘が来ます。さてどうしたらバランスがとれるかな、と稽古場では毎日試行錯誤しています。

でも今回は3回目で、かなり楽しくもなってきました。よく、数学者は“解けない問題”を解くのが好きと言いますが、この作品もそういうところがあって、難しいからこそ(歌うのが)楽しいんです。“くそ~、なんでこんなに難しいんだ、やってやるぞ!”と燃えてくる、といいますか(笑)。例えばタイプを打ち終わった後に“仕事を終えて……”と歌いだすナンバーは、歌う旋律は1フレーズ毎に半音ずつ下がっていく旋律を、オーケストラの変わらないベースの音に合わせてゆくのが難しい。けれど音がきれいにあたる位置というのがありまして、そこにぽんっと入った時には“一段乗り越えたな”という達成感があります(笑)」

――主人公のデュティユル役をどのように造形していますか?
『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

「彼は郵政省の役人で、職場に行って仕事をして、一人で家に帰って、集めた切手を眺めて寝るという慎ましい生活に満足しきっている。このまま定年まで行きたい、問題に巻き込まれたくないと思っている安定志向の人間です。“壁を抜ける”という特殊能力に気が付くけれど、それを使って何かしたいとも思わない。それがある日、職場にやってきた新しい上司とひと悶着があって使ってみたら、思いのほか効果があった。もしかしてこの能力は何かに生かせるのかな、と変わってゆくのです。

ゆっくり流れるライフスタイルや、ぼーっとしている瞬間に幸せを感じるところなどは、僕の“素”に近く(笑)、入っていきやすいのですが、なるべく(存在感の)“小さい”男として演じるのが課題です。俳優は(外に向かって)表現することに慣れているので、小さく見せるって、大きく見せるよりずっと難しいんですよね。ちょっとした目線であったり、立ち方を工夫しています」

――今回はどんな舞台になりそうですか?

「今回はベテランも含め、“額縁からはみ出す”くらい、近年稀にみる個性派がキャスティングされています。そんなキャストが一丸となって、フランスのお洒落さの漂う、素敵で、ほっこりする舞台を目指しています。頑張ります!」

【観劇ミニ・レポート】
『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

歌唱力のみならず“味のある”ベテラン俳優たちが、がっちりとスクラムを組んだ今回の公演。デュティユル役3度目の飯田洋輔さんは肩の力が抜け、怪盗ガルガルとなった喜びを「どこにでも入れる!」と歌うフレーズで最後の音を張りすぎず、役の“小市民”ぶりを残すなど、人物像がよりきめ細やかに。彼が恋するイザベル役は鳥原ゆきみさんが生命感いっぱいに演じ、「籠の鳥」として生きることを強いられる彼女の悲しさが逆に浮かび上がります。
『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

また川原洋一郎さん、明戸信吾さん扮する警官が自転車をぐるぐる乗り回しながら淡々と「生活苦しい」と歌うナンバー、高井治さんが「四人の子持ちだが皆出来損ない」と嘆く、さえない刑務所長のナンバー、澁谷智也さん演じる画家が人妻への思いを絵に託したと歌うナンバーなど、周囲の人々の楽曲もペーソスたっぷり。ルグランの美しくも多彩な音楽を正確に、ふくよかに聴かせつつ、人生の滋味を味わわせます。
『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

『壁抜け男』2016年公演より。撮影:阿部章仁

とりわけ“援助交際50年”の娼婦(はにべあゆみさん)が「今では、優しくされるのは席を譲られる時だけ」とうなだれていると怪盗ガルガルから首飾りをプレゼントされ、浮き浮きと踊りだすシーンが美しく、“日の目を浴びない人間に光を”あてる、本作の温かなコンセプトを象徴。原作ではシニカルな結末も、ミュージカル版では“現実がファンタジーへと転換するハッピーエンド”であることが明確に見て取れる、今回の舞台です。

*次頁で『マハゴニー市の興亡』ほかの作品をご紹介しています!