『メリー・ポピンズ』観劇レポート
マジカルな“見せ場に次ぐ見せ場”が
観る者を“夢見心地”へといざなうファンタジー

『メリー・ポピンズ』

『メリー・ポピンズ』


薄闇の中、屋根の上らしき空間で、煙突掃除のかっこうをしたバートが誰もが知る「チム・チム・チェリー」の旋律を歌いだす。けれども場のムードはどことなく不安定で、歌われる歌詞も“パパとママと子供たち、結ぶ糸は綻び……”と、前方に立つ一家(バンクス家)の絆が失われかけている状況を示唆。
『メリー・ポピンズ』

『メリー・ポピンズ』


“家族崩壊の危機”という作品テーマを提示したところで、舞台は明るい表通りへ。さきほど紹介された二人の子ども(マイケル、ジェーン)は子守であるケイティ・ナナの足を踏みつけ、彼女は激怒。舞台奥の背景画からするすると飛び出してきた家のセットが開くと、ケイティ・ナナは“仕事を辞める!”と言って去ってしまう。

母親のウィニフレッドはきまり悪そうに夫ジョージに報告、子供たちが自分で書いた求人広告文を読み上げると、まだどこにも掲載されていないにも関わらず、そこに傘をさした一人の女性が。“広告を見てまいりました”という彼女メリー・ポピンズは、一家の求める条件にぴたりと合い、早速子供たちを彼らの部屋へと連れてゆく……。
『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima


その後は、ばらばらになりかけた一家が紆余曲折を経て再生してゆく過程を、いくつものビッグナンバーを交えつつ描写。様々なモノを“魔法”で取り出しながらメリーが自己紹介する「何もかもパーフェクト」、次々に色彩を変えるセットの中で人々が歌い踊る「最高のホリデイ」、アルファベットのそれぞれにジェスチャーをあてはめ、目まぐるしく皆が踊る「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」、重力に逆らうバートを始め、大勢のタップダンスが壮観な「ステップ・イン・タイム」、終盤に照明が“もう一人の出演者”よろしく、場内全体で躍動する「どんなことだってできる」……と、エキサイティングな見せ場の連続です。
『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima


キャストが一体となった一糸乱れぬパフォーマンスはもちろん、特に「最高のホリデイ」における、モネの庭園画を蛍光色で表したような“誰も見たことのない”セットデザイン(ボブ・クローリー)と、滑らかな舞台転換が出色。
『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima


日本で言う“子守”とはニュアンスが異なるnanny(ナニー)が主人公であり、また家族観も多少異なる英国人家庭(それも1世紀前の)の物語とあって、台本上の台詞だけでは掴みにくい部分もあるものの、今回のキャストは完璧なまでに各役に身を投じており、タイトルロールの濱田めぐみさんは超人的なキャラクターをきりっとした立ち姿で堂々と表現。wキャストの平原綾香さんは伸びやかな歌声に加え、ほんのり漂うユーモアと親しみやすさが魅力的です。
『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima


バート役の大貫勇輔さんは抜群のダンス力が活き、タップの極(き)めで片足を出す際など、アニメのキャラクターさながらに足がぴょーんと伸びて見えるほど。男らしい発声での台詞にはペーソスを漂わせ、役の幅を順調に広げていることがうかがえます。wキャストの柿澤勇人さんは劇世界と客席との橋渡しとしての気概に溢れ、軽やかな身のこなしと口跡で、登場場面をお茶目にリード。
『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima


バンクス家の大黒柱、ジョージ役の駒田一さんは後半、家族の絆の大切さに気付かされてからの表現に情味があり、最後の妻とのキスにはしみじみとしたものが。Wキャストの山路和弘さんは仕事に忙殺され、賑やかな子供たちにいらつく様がリアルな序盤から、妻に“踊ろうよ”と甘える終盤への変化が鮮やかで、人間味豊かな表現が作品に奥行きを与えます。
『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima


その妻ウィニフレッド役の木村花代さんはどの局面でもものおじせず、華やかなオーラが“元・女優”という役柄にふさわしく、wキャストの三森千愛さんは朗らかなオーラと明るく、芯のある歌声が作品にぴったり。ジェーン役、マイケル役もいずれも確かな音程でナンバーを歌っており、中にはちょっとした台詞の間合いで笑いを誘うちびっこ名役者も。
『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima


バードウーマン、ミス・アンドリューを演じる島田歌穂さんはそのつややかな歌声を対照的な二役で存分に使い分け、特にミス・アンドリュー役での、メリーとの歌声による“対決”シーンは迫力満点。wキャストの鈴木ほのかさんは歌声プラス、各役が象徴する“善意”“底意地の悪さ”それぞれを全身で表現、場面を盛り上げます。
『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima


バンクス家の使用人の一人ミセス・ブリル役・浦嶋りんこさんはパンチのある歌声、久保田磨希さんはリアルな芝居に味があり、同じく使用人ロバートソン・アイ役の小野田龍之介さんは安定感のあるダメっぷり、もう中学生さんはコメディアンとしての経歴を生かし、やや背を丸めた“ロバートソン立ち”それだけで、そこはかとないユーモアを醸し出します。
『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』(C)Marino Matsushima


ブーム提督と銀行の頭取の二役を演じるコング桑田さん、パパイヤ鈴木さんにも、それぞれにおおらかな威厳が。またアンサンブルの面々も、美しいダンスを見せるネーレウス役・長澤風海さん、凧を前にして瞬時に童心に帰る公園管理人役を人間臭く演じる丹宗立峰さん、沖縄方言的なアクセントでミセス・コリーを生き生き演じるエリアンナさんら、確かな腕の持ち主が揃ったカンパニーです。
『メリー・ポピンズ』オリジナル演出サー・リチャード・エア(中央)、日本プロダクション演出ジェームズ・パウエル(右)、振付ジェフリー・ガラット(左)。サー・リチャードは本作に関わるまで原作にも映画版にも触れたことはなかったが、“家族の物語”に焦点を当てて舞台化。普遍的なテーマゆえ日本の観客にも響くものがあるよう祈っているそう。(C)Marino Matsushima

『メリー・ポピンズ』囲み取材にて、オリジナル演出サー・リチャード・エア(中央)、日本プロダクション演出ジェームズ・パウエル(右)、振付ジェフリー・ガラット(左)。サー・リチャードは本作に関わるまで原作にも映画版にも触れたことはなかったが、“家族の物語”に焦点を当てて舞台化。普遍的なテーマゆえ日本の観客にも響くものがあるよう祈っている、と述べていました。(C)Marino Matsushima


なお筆者は1階からも上方階からも鑑賞しましたが、大劇場でもあることから、見え方はかなり異なりました。もちろんどこから観ても楽しめるものの、よりバンクス一家の家族愛のドラマに浸りたい場合は、1階。複雑なフォーメーションを含め、ビッグナンバーの全体像を楽しみたい場合は、2階もしくは3階からの鑑賞が良いかもしれません。



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