時間という役柄を踊るにあたり、ツァイー・チーさんにどのような指導をしていますか?
ヤン>ツァイー・チーには時間が生命に関わるとはどういうことか、よく考えて演じなさいと言っています。例えば蕾が出て、成長して花が咲き、咲き誇っていく様子。でも咲き誇る時間は長くはなくて、すぐに萎れていきますよね。それが自然であり、時間の移り変わりなんだよと……。時間というのは、自然現象を代表するものだと思います。過ぎ去った時間は二度と戻ってこないし、時間はひとりの人間を優遇することもない。ツァイー・チーはまだ子供なので、そうした人生観や生命に対する理解はさほど深くはないでしょう。なので、まず自分で考えて理解しなさいと教えています。それは、踊りの技術を学ぶより実はずっと難しい。しかし、とても意義のあることでもある。ステップはいくら難しくても、練習すればいつかできるようになるかもしれない。ただし精神的なことは学ぼうとしないと身に付けることはできないし、学べば必ずそのひとの踊りにいい影響を与えてくれる。
沢山のひとが時間を意識しないために、人生という時間の無駄遣いをしてますよね。時間は無限だけれど、我々の生命というのはとても限りあるもの。うかうかしている内に、時間はどんどん経ってしまいます。時間という役柄を演じるにあたり、そこがわかれば難しいことはないし、演じていても疲れたと感じることはないでしょう。何故なら、自分が回ることによって舞台を動かしている訳ですから。自分が動かしているという感覚ができれば、後は何も問題ないと思います。
ツァイー・チー>とても大きなテーマなので、私自身たぶんまだ完全には理解できてないと思います。ただ毎回時間という役をやっていても、過ぎていく時間は毎回新しくて、いつも同じものをやっているという感じはしないんです。毎回毎回、その時その時の時間で、違う演技ができているような気がします。まだまだ勉強するところは沢山あって、これから学んでいきたいと思っています。
ツァイー・チー
ツァイー・チーさんは1歳の頃からヤンさんのもとで暮らしているそうですね。
芸術家としてヤンさんから影響を受けた部分、教わってきたこととは?
ツァイー・チー>踊りはもちろん、普段の生活も含めて、いろいろな方面で影響を受けていると思います。叔母は自宅の庭に花を植えていて、よく私が小さい頃に“蕾が出たから見に行っておいで”と言いました。また2~3日すると、“蕾がどうなったか見ておいで”という。“花が咲いてたよ”と報告すると、“また2~3日したら見に行きなさい”という。私が見にいくと、花はもう萎んでたーー。自然を使って知らず知らずの内に、いろいろなことを伝えてくれていたんです。踊りというもの、芸術家として大切にすべきものを、教えてくれていたんだと思います。