『ふたりのママから、きみたちへ』
『ふたりのママから、きみたちへ』は、結婚式を経て、真剣に子どもを迎えたいと願うようになったお二人が、まだ見ぬわが子にあてて書いた文章という体裁になっています。小雪さんが「お母さん」、ひろこさんが「ママ」という設定で、交互に語りかけています。世間では「お父さん、お母さん、子どもが二人くらい。これが正しい家族です!」ということになっているけど、実際にはもっといろんな家族がいる、そして、ママが二人という家庭に育つと、学校でいじめられてしまうかもしれないという心配もある、けど私たちは…というお話です。
お二人は、おつきあいするなかで、また、結婚式を経験したことで、子どもを授かり、育てていきたいという思いを強くするようになりました。そんな話をしていたとき、ある4歳のお子さんを育てているお母さんから「ふたりとも産めるなんて、とっても素敵ね!」と言っていただけたそうです(なんと励みになる言葉でしょう)
じゃあ、実際に日本でレズビアンカップルが子どもをもうけて育てていくとしたら、どういう方法があるのか? そういったあたりもきちんと書かれています。
でも、本当に難関なのは、子どもを産むこと自体ではなく、同性カップルが子育てするという(欧米では当たり前になりつつある)ありようを日本の社会がまだ受け容れていないということ(学校でいじめられたり、さまざまな偏見や差別を受けるかもしれない状況)。生まれてくる子が、できるだけそういう困難に直面することなく、すくすくと育ってほしい、そういう願いも込めて『ふたりのママから、きみたちへ』は世に送り出されたのでしょう。そして、「わが子を愛する母親の気持ち」という誰もが共感できるテーマに沿いながら、決して声高ではない語り口で日本の画一的な家族規範にもの申すという「離れ業」を、お二人はやってのけていると思いました(拍手!)
「近い将来、小雪お母さんとひろこママのお子さんが、無事に生まれて、大きくなって、この本を手にとって読んでくれる日が来るといいなあ」と読んだ方はみんな思うはずです。
後半は、さまざまな人から寄せられた質問に答えるものになっています。
もともとこの本の原稿は「よりみちパン!セ」ホームページに連載されていたもので、それを読んだ方からたくさんの質問が寄せられてました。その多くが10代の方からなのですが、「なぜ結婚式をやろうと思ったの?」から始まり、「女の子が好きっていう気持ちとレズビアンはどう違うの?」「レズビアンと障害って同じに考えていいんですか?」「レズビアンの人ってみんな子どもがほしいの?」「子どもをどうやって守るの?」「子どもが将来結婚しようと思ったとき、親が同性カップルだと、相手の親に反対されそう…」など、率直で、多岐にわたった内容になっています。
お二人はもちろん、そうした質問に対し、配慮が行き届いた素晴らしいお返事をしているのですが、この(今までありそうでなかなかなかった)やりとりもまた、この本の醍醐味だと思います。
この本は「よりみちパン!セ」シリーズの一冊です。「よりみちパン!セ」とは、中学生以上(主に中高生)向けの、学校の図書館によく置いてあるような教養書シリーズ(キャッチフレーズは「ほんとうはみんな知っている。寄り道こそ、人生の本道だ!」)で、中高入試問題にもよく採用されているそうです(もともとは、灰谷健次郎の本など優れた児童書をたくさん出版してきた理論社から出ていたのですが、現在はイースト・プレスに移っています)。伏見憲明さんの「さびしさの授業」「男子のための恋愛検定」もこのシリーズに入っています。
この『ふたりのママから、きみたちへ』が、全国の学校の図書館に並べられ、(現状、家族の多様性や性の多様性についてほとんど教えられることのない)中高生の方たちにたくさん読まれることを想像すると、心が躍ります。素晴らしいことですね。