トロンボーン・デュオ スライディング・ハマーズ「シング」より「アイ・ウィッシュ・ユー・ラブ」
シング
スライディング・ハマーズは、ミミとカリンのハマー姉妹によるスウェーデンの美人トロンボーンデュオ。チーム名の「スライディング」は、彼女たちの楽器、トロンボーンに由来するネーミングです。
トロンボーンには大きく分けてスライド式とバルブ式の2つ種類があります。バルブ式と言うのは、トランペットと同じ構造の3つのバルブにより音程の操作をするもの。それに対して、スライド式と言うのは、右手に持った管の部分を文字通りスライドさせて、音程を取るというものです。この2つ違いは楽器としてのテクニックの違いとなるために、スライド式の方が、難しいとされており、それだけにトロンボーン奏者の中でもこの2つはまったく違うという意識が強いのです。
特にジャズにおいては難しいスライドを自在に扱っている奏者は、「スライド」を強調する傾向にあります。CDの表記のところに只のトロンボーンではなく、「スライド・トロンボーン」と明記したり、ジャケット写真でスライド部分を強調してみたり。
はたまた自分の名前に「スライド」というあだ名をつけたりします。ミミとカリンもプライドを持って「スライディング」とつけたのが想像できます。
演奏は、姉妹だけに息の合った合奏が売りで、その上、姉のミミは、物憂げなヴォーカルにも味があるのが強みです。この彼女たちにとって三枚目のCDは、その姉のミミのヴォーカルを前面にフィーチャーした雰囲気の良いアルバムです。
全曲お洒落な感覚の演奏ですが、特におススメの「アイ・ウィッシュ・ユー・ラブ」はもともとは1940年代のシャンソン。当然フランス語の歌詞がついていました。同じくシャンソンで有名な「枯葉」と一緒で、英詩がついてスタンダードになったものです。
歌の内容は、大人の別れの歌。別れる相手のことが未練たっぷりで、それでも一番良い選択は自由にしてあげることだという大人の歌です。
ミミの歌もカリンのトロンボーンも、粋でしかも耳に優しく、心地よく響きます。特に、ここではピアノソロを取るマティアス・アルゴットソンの粒立ちがとてもきれいです。ピアノの音色が、まるでドレスアップした彼女たちの耳元や胸元に上品に光る真珠のネックレスのようなイメージです。
いつもはパンツルックで管楽器らしい活発さを強調している二人ですが、今回のジャケット写真は、曲調に合わせてお洒落なドレススタイルです。大人の色気も程よく、趣味の良いものになっています。
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トランペット奏者 イングリッド・ジェンセン「ハイヤー・グラウンド」より「ディア・ジョン」
Higher Grounds
イングリッド・ジェンセンは、カナダ出身で女性では珍しいトランペット奏者です。唇やそれを支える口の周りの筋肉、肺活量など、女性が扱うにはややハードに思えるトランペットを、イングリッドはやすやすと演奏して見せます。しかも、イングリッドのその演奏スタイルは、シリアスなジャズそのもの。
このCDでは、同じトランペット奏者のフレディ・ハバードの「ディア・ジョン」を取り上げています。ハード・バップ調のこの曲の軽快なテーマの後、力まない軽めのサウンドで颯爽と飛ばしていくイングリッド。CDを聴くほどに、良い意味でのジャケット写真の華奢な彼女と、彼女の追及するハードな音楽とのギャップに、もはやジャズが国境やジェンダーを超えた音楽になったことがわかるということになります。
女性ならではの、結婚や出産によるキャリアの中断にもめげずに、現在でもライブ活動をしているイングリッド。彼女の存在は、今後色々な楽器でのますますの女性プレイヤーの活躍が、期待される先駆けとなっています。
次のページでは、いよいよ頑張っている日本の女性プレイヤーの登場です!
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