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アメリカン・バレエ・シアター記者会見リポート!(3ページ目)

2014年冬、待望の来日を果たしたアメリカン・バレエ・シアター(ABT)。公演を前に開かれた記者懇親会には、芸術監督のケヴィン・マッケンジーをはじめ主要ダンサーが出席し、その意気込みを語りました。ここでは、会見の様子を完全リポート! スター・ダンサーたちの生の声をお届けします!

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

バレエガイド



スター・ダンサーが語るABTの魅力

続いて質疑応答へ。記者からの質問に、マッケンジーとダンサーたちが答えています。

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(C) Tokiko Furuta



Q:ABTほどの大きなカンパニーにとって、新しい息吹を注ぐのは大切なことだと思います。(新制作の)ラトマンスキー版『くるみ割り人形』はABTにとってどのような魅力があるのでしょうか。また今後ABTではどんなプロジェクトを展開していき、どのような新しい振付家に注目しているのでしょうか。

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(C) Tokiko Furuta

マッケンジー>ご指摘のとおり、伝統ある作品を継承していかなければいけないというのは、バレエのみならずオペラや音楽、全てのカンパニーにおいて大切な責任の一翼です。我々は『白鳥の湖』や『ラ・バヤデール』といった伝統的な演目を、むしろオリジナルに忠実な形で継承していきたいという考えを持っています。

我々はラトマンスキーをアーティスト・イン・レジデンスという形で擁していますが、彼を選んだ理由というのは、21世紀を踏まえて非常に過去の歴史に関して深い知識があるということと、それに関わらず前を向いて新しい挑戦をするアーティストであるからです。伝統的な演目に少し手を加えた新しい演出というのはいつの時代も流れとしてありますが、ラトマンスキーの発想はもう少し踏み込んだ所から新しいものを発想しようという構造があります。私は今回この『くるみ割り人形』が日本で成功を収めることができたら、きっとあちこちでやって欲しいという要請が来るだろうと思っています。

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(C) Tokiko Furuta

本来目で観て楽しむべきバレエを言葉で説明するのは難しいのですが、例えば改訂を重ねた版というのが、“以前の版と比べてここが違う”というように“前のものに比べて……”という概念の上に成り立っているとすれば、ラトマンスキー版は全く新しいもので成り立っていると思っていただけると思います。彼はクラシックのパ・ド・ドゥなどのステップがどういうボキャブラリーを持って振り付けられていたかという知識をないがしろにせずに、自分のボキャブラリーを開拓して振付をしています。

今後そのような新しい挑戦に向けて、どういった作品や、どういった振付家に興味があるかというと、私どもカンパニーとしてはやはりフレッシュな刺激を与えてくれる存在、互いにそういった関係が築ける存在に興味を持ってきました。トワイラ・サープもその一例です。ABTの伝統的精神にもありますが、今後もクラシックというものにしっかり足場を見出しつつ、一方で新しいものを見つめている振付家を見付けていきたいと思います。

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(C)Tokiko Furuta


Q: ABTを見ていると、世界のバレエ界の縮図になっているように感じます。加治屋さんがソリストになったり、韓国のダンサーがプリンシパルになったり、ロシアのダンサーも増えている。現在のカンパニーを、マッケンジーさんはどう捉えていますか?

マッケンジー>私は全ての国のナショナルカンパニー、大切な位置にあるカンパニーというのは、インターナショナルであるべきだと考えています。例えば世界を見渡すと、英国ロイヤル・バレエ団があり、ボリショイ・バレエがあり、マリインスキー・バレエがありという地図が浮かびますが、それぞれが自分の国のバレエ団であると同時に、世界に向けたインターナショナル性が必要だと考えています。そもそもアメリカという国にはいろいろな国のひとたちが移住してきてその寄せ集めでもありますが、ABTを見渡しても、例えば20の国籍のダンサーがいたらそれぞれの違った個性がすでにある訳です。

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(C) Tokiko Furuta

バレエというものがそもそもそれぞれの国の出発点があって発展してきているということを考えると、みんな出発点が違って、バレエが違って当たり前ということになる。チャレンジでもあり楽しいことでもありますが、そういったダンサーが集う場所であれば必然的にカラー、コミュニケーションが生まれてくるのは当然のことだと思います。今日私の隣にいるのはロシア人のダンサーで、その隣に座っているのはアメリカ人、反対にはイタリア人がいる。そういった場所なので、違いがあって当たり前。このひとの国ではこんな風に踊るんだ、こんな風に解釈するんだ、という情報の交換がなされる場になっていく訳です。

自分もABTの環境の中で、カンパニーが招く世界各国それぞれの時代の一流のダンサーを自分の先輩として、そして同僚として見ながら育ってきました。私自身にそういった気風というのが自然と染みついていますので、芸術監督という立場になったからどういう方針にしようと勉強した訳ではなく、自然とそのようなインターナショナル性を引き継ぎ、実践していこうという形になっているのだと思います。自分にとってはそれが非常に素晴らしい環境になっていると思います。そして世界中から集ってくるいろいろな方と仕事ができるということは非常に楽しみであり、非常に大きな誇りとなっています。

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(C) Tokiko Furuta



Q:ABTは2006年にナショナル・バレエ・カンパニーに認定されました。その認定によって、国からどのようなサポートがあるのでしょうか。あと、アメリカにある他のナショナル・バレエ・カンパニーを教えてください。

マッケンジー>ナショナル・バレエ・カンパニーという呼び名ですが、これは国家政府から金銭的な支援があるという意味合いではなく、文化的な意味においてアメリカの文化を継承しているという認定をいただき、外国においてはきちっとそれを広める使命があるという責任を伴う名称です。

支援という意味では、ヨーロッパとアメリカでは違います。ヨーロッパの公立の劇場というのは多かれ少なかれ数十%程度の資金の援助が公的に捻出されていると思いますが、アメリカの場合は完全に自力経営に任されています。公的な資金があったとしても、せいぜい数%になります。ですので、私どもは企業の援助や個人の寄付が大きなサポートに繋がっています。

アメリカでナショナル・バレエ・カンパニーとして認可されているのは、私が知る範囲ではニューヨーク・シティ・バレエやサンフランシスコ・バレエなど、海外でツアーをやっているバレエ団はそのレベルだろうと思います。

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(C) Tokiko Furuta



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