受賞者公演で発表する『ケレヴェルム』は改訂版になるそうですね。
関>2012年に上演した『ヘヴェルルッド』という作品からヒントを得て、新作を作ります。『ヘヴェルルッド』がスタート地点にあって同じ振りを使ったりもしていますが、もとは5人だったダンサーが8人になり、会場もSTスポットからシアタートラムになるので広さも違いますし、見え方がだいぶ変わってくる。私自身も少し変わっているはずなので、改訂版とはいえ新しいことに挑戦したいと思っています。ダンサーは全員オーディションで選びました。『ヘヴェルルッド』にも出演してくれたダンサーが今回3人いますが、彼らにもオーディションに参加してもらいました。普段のクリエーションでもやっている方法なんですが、オーディションではまず音楽に合わせて作った動きを渡した後、それを元にいくつかの課題を渡して、個人の作業とグループでの作業の両方を見せてもらいました。
『ヘヴェルルッド』(C)Kazuyuki Matsumoto
ダンサーを選ぶ基準とは?
関>雰囲気のある人が好きです。立ち止まっているだけでも身体が喋り出す可能性がある人です。『ヘヴェルルッド』は身長も雰囲気も同じようなダンサーだから出来たことが沢山ありました。今回はイチかバチかではありますが、全部バラバラにしました。身長ひとつとっても、一番背の高い男の子から一番背の低い女の子まで30cmほど差があります。あまりにバラバラで、“面白い集まりだ!”と思って決めたものの、クリエーションが進むにつれ“ちょっと困ったな”と一瞬思うこともありました。ですが、このメンバーだから見えてくることもあるのではと考えています。タイトルは関さんの造語だとか。
関>最近は造語を使うことが多いですね。2010年に発表した『マアモント』はエストニア語、『ヘヴェルルッド』はヘブライ語からの造語でした。キーワードになる日本語を検索したり、本屋さんで調べたりして組み立てています。『ケレヴェルム』はヘブライ語の“はかないもの”、“息”、“(生き物の)内部”、ラテン語の“積み重なった塊”という意味の言葉からの造語です。私は普段、虫など人間でないものの生態を調べて作品をつくることが多いんです。ただ『ヘヴェルルッド』のときは虫や動物っぽくもなく、どちらかというとヒトだったり細胞というイメージがあって。改訂版なので、そういう言葉を入れたいと思ってこのタイトルになりました。
『アミグレクタ』(C)GO
創作の始まりはどこから?
関>昔はよく“画”が見えていました。こういう世界だったらいいのにとか、こういうことをやってみたいとか、画といっても空間や行動です。最近はそれだけでなく、動きなど、身体のイメージから始まることもあります。今自分が生きて何を思っているのかということを、昔より意識して振付に取り入れるようになってきました。クリエーションでは、振りを作ってダンサーに一度預けます。振りの段階では私のイメージもいくつか入れるようにしているものの、まだほとんど無機質な状態です。ダンサーによってはその振りを逆回しにしてもらったり、正面を変えた状態で考え直してもらったりします。
もとは同じ振付でも、間の入れ方だったり振りの解釈の仕方が違うので、それぞれのダンサーによって見えるものが違ってくる。ダンサーから何かが見えたら、その部分を拾って膨らませていきます。タイトルを付けた時点で、いくつか“こういうことをやってみよう”ということは考えているのですが、実際にダンサーとやり取りを始めてから見えてくる事が沢山あります。
虫も動物もそうですけど、生き物って何でもリズムを持っていると思っています。彼らのリズムややりたいことというのがあって、本当の理由はわからないけれど、その行動にこちらが勝手に吹き出しを付けるように眺めていることができる。そういう状態に落としていきたいんです。音楽がないのもそのためで、音楽を入れるとそのリズムが消えてしまうし、雰囲気が過剰になってしまうから、私にはまだ扱えないんです。
舞台に立っていても、その人の必然で動いて欲しい。けれど、お客さんの目も忘れないでいて欲しい。どのように動くかは、まずはダンサーに預けたいと思う。ただ、何かがひとつズレてくると見える画が全然違うんですよね。見せたい雰囲気と正反対の雰囲気が立ち上がってしまうような状態になる。なので矛盾しているようですが、立ち方は見つけながらも、筋は通して欲しい。バラバラに見えても、意外とみんなきっちりやっていると思います。