わが国の「建て替えありき」の法的枠組みは、諸外国からみれば希有なケース
「建て替えありき」の発想は日本特有の住宅文化
しかし、こうした「建て替えありき」の発想は諸外国と比較すると希有なケースに該当し、たとえば、アメリカでは日本同様、「5分の4決議」という数値を掲げてはいますが、決議される事項は「区分所有権の解消」についてで、建て替えは想定されていません。また、ドイツやフランスをみてもほぼ同じです。アメリカほど区分所有法の解消には積極的でないにしろ、やはり建て替えについては両国とも想定外となっています(図表3)。
切迫性が高まる巨大地震 検討が本格化するマンション末路への第3の選択肢
とはいえ、巨大地震の発生が現実性を帯びる中にあって、人命保護の観点からも構造耐力が不足している老朽化マンションを放置しておくわけにはいきません。そこで、国土交通省は老朽化マンションの再生促進策として、耐震性が不足したマンションの敷地を売却できる新制度の創設に乗り出しました。最も難関となる権利調整に新たなルールを創設し、また、転出者(マンション居住者)や敷地の買受人に対する不動産税制の優遇措置なども検討しています。1月24日に開幕した通常国会に法案が提出され、本格的な制度設計が議論されようとしています。
報道(新制度案)によると、耐震性が不足したマンションの敷地を売却するためには区分所有者の5分の4以上の賛成で行うことができるほか、デベロッパーが新たに新築マンションを建設した際には再入居を可能にし、あるいは他の住宅へ住み替えることも選択できます(住宅産業新聞1月23日より引用)。
現行法(民法)では敷地売却には区分所有者全員(100%)の賛成が必要とされており、5分の4(80%)まで緩和することで利便性の向上に資する狙いです。すでに国交省では老朽建築物の建て替えや耐震改修などの促進に232億円を予算計上しています。
首都直下地震に南海トラフ巨大地震 ―― 地震は待ってくれません。いつ来ても対応できるよう、老朽化マンションの再生策が急がれます。