グッドデザイン賞を受賞した木造高級賃貸
世田谷の閑静な住宅街、深沢。桜の名所として知られる呑川沿いに、ひっそりと佇むモダンな木造建築がある。「ディアガーデン深沢」は、すべての住戸が200平米超。外国人をターゲットにした高級賃貸アパートだ。総戸数は6戸。連棟長屋形式の建物である。1階にはガレージや吹き向けの寝室、マスターベッドルームを。2階はダイニングスペースに桜並木が望める大開口の空間がある。間取りは4ベッドルーム。じつはこの建物、2009年グッドデザイン賞を受賞している。公式サイトの講評では、「玄関アプローチは京都の路地風に、玄関扉は古民具風に、また建物内には光庭を配置し、さらに小紋柄のデザインをバスルームの引き戸などに表現する事で日本的なテイストを実現し、文化の伝達を図った」とある。立地特性を考慮し、ターゲットとなり得る顧客に何をアピールしたかったが明確だ。
木造ならではの特徴とは何か。住宅に関していえば、限られた空間に大きな柱や梁が出っ張らないことなどはわかりやすい利点だろう。集合住宅といえばRC(鉄筋コンクリート)造という固定観念があるようだが、先般こんな例を拝見した。新しい都市型住宅のひとつになるかもしれない。
都内初、2×4木造耐火5階建て
まずは概要をかいつまんで記そう。所在地は中央区銀座2丁目。敷地面積59.69平米。ツーバイフォー5階建て(1階はRC造)。用途は1階が店舗(喫茶店)、2、3階が賃貸住宅、4、5階がスタッフルーム(オーナー利用)である。老朽化による建て替えを検討していたオーナーは、当初は新しい建物でも同じ鉄筋コンクリート造のビルを計画。しかしそれでは、EVスペースや非常階段、柱の出っ張りなどで有効に使える面積が極端に少なく、決断できずにいた。結果的には、コストも低く抑えることができた木造建築にたどり着くわけだが、実現にはいくつかの新しい技術がある。
木造というと、どうしても耐火上不安があるのでは?と思いがちだが、2004年に木造初となるツーバイフォー工法による耐火構造認定を取得。以来、都市部の防火地域を含めその実績は着実に増え、業界団体の調べでは2,200棟超に達しているという。
もうひとつの特筆すべき技術が「外壁建て起こしシステム」という工法。これは床の上で組立てた壁を、手動ジャッキで起こして立てるというもの。そもそも密集地の狭小地では、作業をするためのスペースが十分に取りづらい。足場から資材の置き場まで限られた条件の中で施工することとなり、スケジュール(コストと置き換えても良い)管理と最適な工法の選択は重要なポイントになってくる。
軟弱地盤、密集地域で狭小地の価値を向上させる可能性
地盤の緩い地域では、重量のあるRC(鉄筋コンクリート)造より木造建築が望ましいケースもある。東京都では木密地域の解消に中期的に取り組んでいるわけだが、今回の事例で感じたのは、軟弱地盤における狭小地の建て替えに一つの選択肢を提示しているということだ。隣接建物が迫っている現場。ある程度高度利用が可能な地域。有効面積が十分に取りずらい敷地条件。そのような土地の価値を向上させるアイデアになるかもしれない。現在所有するオーナーはもとより、新たに用地を取得して賃貸収入を期待する投資家にもひとつの情報になるのではないか。
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