世界遺産/アジアの世界遺産

ハロン湾/ベトナム(2ページ目)

山水画を思わせる幻想的な景観から「海の桂林」の異名を持つベトナム随一の景勝地・ハロン湾。もやのなか1600もの奇岩が林立する奇観は息を呑むほど美しく、「竜が吐き出した無数の宝玉が島に姿を変えた」という伝説を生み出した。今回は島々を縫って進むクルーズが楽しいベトナムの世界遺産「ハロン湾」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

ハロン湾の降竜伝説

竜の宝玉

竜の宝玉と称された美しい島々。晴れた日は青空との華麗なコントラスト、曇りの日は水墨画のようなモノクロームな端麗さ、雨の日はもやに包まれた幻想的な風景が楽しめる

ロンティエン寺

ロンティエン寺。いたるところ竜の彫刻やレリーフで飾られている。寺自体は1941年竣工で古いものではない

人々は古くから豊かな海産物を育むハロン湾で暮らしを立ててきた。しかしその富を狙ってしばしば海賊が出没する土地でもあったようだ。そこで生まれたのがこんな伝説だ。

昔々、ハロン湾に侵入した海賊たちが村々を襲撃し、略奪を繰り返していた。困り果てた村人たちが天に祈りを捧げていると、嘆きを耳にした親子の竜が天を降り、ハロン湾沿岸の村に舞い降りる。ホンガイの街にあるロンティエン寺(竜天寺)こそその場所だ。

二匹の竜は海賊たちを目にするとその尾で山を切り裂き、口から宝玉を吐き出して海賊船を沈めていく。やがて海賊船が消え去ると宝玉は岩山へと姿を変え、海上の砦として湾を取り囲んだ。以来こうした島々が沿岸の村々を守り続けているのだという。そして村人たちはこの湾を竜(ロン)の降りる(ハ)海=ハロン湾と呼び、この伝説を語り伝えた。

 

香炉岩

ベトナムの紙幣にも印刷されている香炉岩。数百の島に名前がついているという

13世紀、実際にこの奇岩群によってベトナムは救われている。

東アジアからヨーロッパに至る史上空前の大帝国を築いたモンゴル帝国。中国を征服して元朝を建てたフビライは満を持して南下を開始、ベトナム・南越を攻撃する。一時は首都・タンロン(世界遺産「ハノイ-タンロン王城遺跡中心地区」)を奪われたものの、ゲリラ戦を展開してこれを奪還。

ハロン湾でも将軍チャン・フンダオが奇岩群を巧みに利用した戦術でモンゴル軍を迎撃した。そして海底に杭を打って敵艦隊をおびき寄せ、干潮で水位が下がって杭に引っ掛かったところを叩くという戦術で大勝利を収めたと伝えられている。

 

ハロン湾の見所 1.ハロン湾クルーズ

ハロン湾の夕景

ハロン湾の夕景。1泊以上のクルーズに参加するとハロン湾での船上泊が楽しめる。夕陽・星空・日の出の鑑賞は船上に宿泊した人だけに許された特権

水上村落

漁師たちが暮らす水上村落。魚介類の養殖を行っている家もある

世界遺産「ハロン湾」は約1600もの島々からなる海の景勝地で、バイチャイやホンガイという街の2kmほど沖合から南東に広がる東西約30km、南北約23kmの広大な海域が登録されている。この中で、観光客が訪れるのは北東部のほんの一部だ。

海の世界遺産で海域にはホテルもないので、観光客はバイチャイやカットバ島で船に乗って島々を訪れる。クルーズの概要をざっと紹介しておこう。

■ハロン湾日帰りクルーズ
もっともベーシックなクルーズ。昼頃バイチャイを出発して島々を抜けながら昼食。ダウゴー島に上陸してティエンクン洞窟かダウゴー洞窟を探索し、水上村落や養魚場を見学してシーカヤックに乗り、香炉岩や闘鶏岩などを見学して夕方16~17時にバイチャイに戻る。訪ねるのはハロン湾の入口付近だが、湾の雰囲気は十分味わえる。

 

■ハロン湾宿泊クルーズ
客船やジャンク船内で1~数泊をすごすクルーズ。日帰りの内容に加えてスンソット洞窟、メクン洞窟などを探索するほか、クルーズによっては砂浜での海水浴や船上バーベキュー、ベトナム料理教室などが加わる。朝もやに包まれた山水画のような絶景やまっ赤な夕景、満天の星空、絶品の海鮮料理は船上泊でないと味わえない。

■その他のクルーズ
島のひとつ

ハロン湾に浮かぶ小島

これ以外にも客船を借り切ってオリジナル・クルーズを催行することもできるし、ハロン湾を見学してからカットバ島に向かうクルーズなども存在する。

こうしたクルーズはハノイ、バイチャイ、カットバ島のホテルや旅行代理店で気軽に申し込むことができる。ただし、ハノイからの日帰りクルーズの場合、7~8時間はハノイ-バイチャイ間の往復に費やされてしまう。

雰囲気を知るために現地のクルーズ会社のリンクを掲載しておこう。英語中心のサイトだが、写真だけでも楽しんでほしい。

 

[関連サイト]
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