プリンシパルに昇格!
バレエ団のトップとして……。
入団から4年目にあたる2012年、プリンシパルに昇格。名実共にバレエ団、そして日本バレエ界を背負って立つスター・ダンサーのひとりとなった。高くダイナミックなジャンプに、キレのいいピルエット、正確なポジショニング。技巧派揃いの新国立劇場バレエ団の中でも、屈指のテクニシャンとして知られている。なかでも今年6月に主演を務めた『ドン・キホーテ』では、2013/2014シーズンよりプリンシパルに昇格した米沢唯とパートナーを組み、圧倒的な技量を見せつけ会場を大いに沸かせている。
「“米沢さんと技を張り合ってる”なんて言われましたけど(笑)、僕としてはそんなつもりはなくて。自分自身のことだけで精一杯。リフトを落とさないように、米沢さんをきちんとサポートするようにと、最低限のことをやってただけです」と、あくまでも謙虚な姿勢を崩さない。
快活な『ドン・キホーテ』のバジル役は、もはや福岡さんの当たり役。しかし、その振り幅の広さは留まることなく、多彩なキャラクターを柔軟に自身の色に染め抜いてゆく。
『ドン・キホーテ』(2013年)
撮影:瀬戸秀美
演目ごとに表情を変える懐の深さ。そこには、舞台に対する深い眼差しがある。
「作品として、このパは入れてもいいかとか、こういう風にしたらこの世界観にマッチするかなっていうのはいつも考えてます。繋ぎのパが上手くいくよう考えた上で、じゃあテクニックはこうしようと考えたり……。『ドン・キホーテ』の場合はまずテクニックありきというか、やっぱり派手な方がいいと思う。だけど、『ロメオとジュリエット』の方が感情を出すというか、技にプラスアルファが表現として加わるから、好きって気持ちは強い。どちらも好きだし、好きの種類がそれぞれちょっと違うのかもしれないですね」
『ロメオとジュリエット』(2011年) 撮影:鹿摩隆司
2013/2014シーズンも、『バレエ・リュス ストラヴィンスキー・イブニング』にはじまり、『くるみ割り人形』『白鳥の湖』と、休むことなく舞台が続く。演じるのはいずれも、主役級の役ばかりだ。しかし、バレエを一歩離れれば、プリンシパルからひとりの男性に戻る。切り替えはかなり上手なよう。
「バレエと私生活の区切りはしっかり付けます。リハーサルが終わった瞬間、“はい、終わり!”っていう感じ(笑)。なるべくプライベートの時間も大事にしたいので。特に本番の後はそのまま寝てもすぐ起きちゃうから、外にご飯を食べに行ったりして、寝るまでに普通の状態に戻すようにしています」
プライベートの過ごし方は? と尋ねると、実に気さくな答えが返ってきた。
「家でゴロゴロしてます(笑)。何も考えずにひたすら寝たり、テレビを見たり。オフの日だったら、原宿へ買い物に行ったり、ゴルフやダーツをしに行ったり……」
バレエに魅入られ20年あまり。その想いは、今なお薄れていないと語る。福岡さんが今、最もやり甲斐を感じる瞬間は……。
「舞台に立ってるときですね。やっぱり舞台に立つことが好きなので。舞台に立ってると、幸せだなって実感します。リアルに生きてる感じがするというか……。スタンスは子供の頃とあまり変わってないみたい。“楽しい”って思ってたのがもっと現実味を帯びて、“幸せ”になった感じ」
プリンシパルとして、今やカンパニーを牽引する立場。舞台の成功も、動員も、評価も全て、自身の存在にかかっている。しかし頂点に登り詰めた今もなお、ひたむきな想いは変わらない。
「とにかくバレエが上手くなりたい。僕全然ヘタなので、レッスンしてるといつも“ハーッ”て落ち込みます。いつも考えるのは、ごく単純なことばかり。“このポーズはこうしたらもうちょっとキレイに見えるんじゃないか”、“足が長く見えるんじゃないか”とか。願いは、ひたすらバレエが上手くなりたい、それだけです。本当に、心底そう思ってます」