絵本/絵本関連情報

没後80年 絵本で読む宮沢賢治の世界(5ページ目)

2013年は、宮沢賢治没後80年にあたります。この節目の年に、あらためて宮沢賢治の童話等を原作とする絵本を振り返ってみましょう。絵本という視覚化された表現を通して、これまで気付かなかった賢治の魅力を再発見できるかもしれません。

執筆者:大橋 悦子

人気絵本作家が描く、とびきりの宮沢賢治

最後に、近年発表された絵本の中から、2人の人気作家の作品をご紹介します。どちらも、それぞれの作家の作風を存分に活かして、賢治童話の世界を描いた秀作です。

■オツベルと象 荒井良二

たいようオルガン』や『はっぴいさん』でお馴染みの人気作家・荒井良二さんが、『オツベルと象』を描きました。

地主のオツベルは、強欲でやり手の男でした。ある日、オツベルのもとに白い象がやってきました。オツベルの口車にのり彼の仕事を手伝う象でしたが、やがてオツベルにこき使われ、身も心も弱っていきます。どうしようもなくなった象が、月の助言に従って森の仲間に助けを求めると……

荒井良二さんの絵は、黄色を多用した可愛らしい印象があるのですが、この作品は良い意味でその印象が変わります。トレードマークの黄色ではなく、鮮やかな赤を効果的に使い、可愛いらしいどころか怖ろしささえ感じさせる仕上がりなのです。私など、「『オツベルと象』って、こんなに激しいお話だったかしら?」と自問自答してしまったほどです。

とはいえ、『オツベルと象』は、声に出して読みたくなるような、不思議で面白い音をいっぱい含んだ名作です。また、テンポもとてもよい文章なので、大変読みやすく、読み聞かせをすることが心地よく感じられる作品でもあります。ですから、黙読ではもったいない! どうぞ、声に出しながら、荒井良二さんによる新しい『オツベルと象』をご堪能ください。

■よだかの星 ささめやゆき

よだかは、その醜い容姿の為に、他の鳥たちから疎まれていました。ある日、名前の良く似た鷹から改名をせまられ、さらに従わなければ殺すとまで言われたことをきっかけに、弱肉強食の世界に絶望を感じるのでした。やがて、自ら星になることを望んだよだかでしたが、星々はそれさえも許してはくれませんでした……

何ともやりきれない読後感を残すこの物語に、小さな救いがあるとすれば、それは、ささめやゆきという絵本作家に出会ったことかもしれません。ささめやゆきが描く、素朴で落ち着きのあるクレパスのラインが、よだかの深い悲しみを、誇張することなく静かに読者に伝えてくれます。

決してリアルな表現ではありませんが、私には、童話らしい温かみのある絵が、よだかの命のきらめきを一層輝かせているように思えてなりません。

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