美術セットもやはり、コルビュジエに因んだものになるのでしょうか。
首藤>『Shakespeare THE SONNETS』のときは、美術というよりも、シンプルな空間で、衣装自体が芸術のようなイメージでつくってました。ただ『小さな家 UNE PETITE MAISON』に関しては、まずコルビュジエの“モデュロール”という寸法が基盤にあって。183cmの人間が手を伸ばしたときに、届くのが226cmの高さで、おヘソは必ず113cmの位置にあるという、コルビュジエがつくった黄金比です。中村>そこから、人間が椅子に座るときの高さとか、座る角度とか、生活するための数値を出していったという……。
首藤>すごく数学的なんです。
中村>そうなんですよね。人体を基にしているんだけど、非常に数学的な比率になってる。そうやって生まれたのが、彼が最後に過ごした部屋の寸法で、今回のセットはそれと同じ大きさになっています。すごく小さいですよね。
首藤>八畳くらいしかない。フランスを代表する建築家が最後に夫婦で住んだ家が、この八畳くらいの家だったんです。
中村>意外すぎますよね。コルビュジエって信じられないほど大きな都市計画とか、壮大なもの、すごく大きい建物をつくってるイメージがあるのに。
首藤>でも一番心地良い場所が、これだったという。ここに、全ての豊かなものがそろっていると。窓の外を見れば、地中海が広がっていたり……。
中村>しかも、コンクリートではなく木が張ってあって。これも意外なんです。
首藤>手がけてきたものは全部コンクリートなのに、自分の家は木でつくってる。それがまた、すごく温かいんです。とても有機的な感じがして。
中村>オーガニックで、ポエティックで。
首藤>人間味に溢れてる。全て数値であらわされているのに、実はすごくポエティック。本人もそう言ってるんですよね。
中村>完全さということを追求してはいるけれど、数学的ということは、実はすごく詩的なことなんだと。
首藤>すごくロマンがあるし、すごく人間的だなって感じます。例えば“住宅は住む機械である”と言っているように、彼が残した言葉は一見するととても冷たかったり、挑戦的に感じたりする。でもそれをひとつひとつ解いていくと、彼の温かみ、人間愛が溢れていて……。作品をつくればつくるほど、今そのギャップに悩まされているところです(笑)。
コルビュジエの手掛けた国立西洋美術館本館 撮影:新良太
創作はどのように進めていますか?
首藤>二人で話し合いつつ、流れを決めたり……。中村>そうですね。“こういう動きをしてください”っていう振付けではなく、二人で探しながらやってる感じです。
首藤>二人で何ができるのかを探しているというか。今回は特に、建築であったり、水平や垂直ということを扱っていて、力学的なものや数学的なことが関わってくるので……。
中村>垂直や水平、力学、スパイラルとか、数学的なルールにのっとっていて、それを身体化するとどうなんだろうと。クリエーションにしても、これまで確かじゃないけど大事にしていた要素とか、動きのエレメントがより明確になったというか。もともとやっていたことを、もう一度検証しなおすような作業ですね。実際にストラクチャーを考えるときは、“こういう構成だったらいいな”という風にあくまでも念入りに練っていきます。でもそれを身体化していくと、“あれ、なんかちょっと違うんじゃない?”“ここにはもしかしたらこういう伏線があるのかな?”なんて、つくりはじめて気づく部分も沢山ある。そうすると、ストラクチャーの全体的な見直しをまたしたり、というのが必要になってくる。
首藤>毎日クリエーションが終わって、家に帰るとまた見直して。
中村>それで次の朝になると、“ねぇ、昨日の夜閃いたんだけど”って言ったりしてる(笑)。
首藤>今日も、会った瞬間その話(笑)。“あそこってこういうことだよね”“じゃあそういこう”って。もしかしたら、また明日も変わるかもしれない。“きっとコルビュジエはこう思ったんじゃない?”とか……。
『Shakespeare THE SONNETS』
撮影:鹿摩隆司
楽曲は本作のためのオリジナルですね。振付けとの関係性は?
どのような作業でつくられているのでしょう?
中村>最初に振りをつくる前に、“この作品ではこういうことをお願いしたくて、方法論としてはこういうアプローチを取っていく”というのを、まず(音楽を手掛ける)ディルクさんに伝えています。それを受けて、彼が音楽的にはどういうアプローチを取るかという方法論を決めるんです。そこである程度方法論が決まってきたら、各セクションで具体的に割っていき、各セクションで必要なことやあらわしたいことを伝えていって……。首藤>下準備がいろいろ必要なんです。
中村>音にしても、こういう楽器を使おうかとか、こういう音素材を使おうという下準備がいる。今までの作品では生音だったり、歌や演奏したりしたものを録音して使ったこともありましたけど、今回の音源は基本的にサンプルです。すでにある音を、一個一個組み合わせてつくっています。
首藤>ディルクさんは中村さんと長い間一緒に仕事をしてるから、何がしたいか大体わかってくれるんですよね。
中村>ネザーランド・ダンス・シアターの頃からなので、二十年来の付き合いになりますね。
首藤>僕らのデュオでは、『時の庭』、『Shakespeare THE SONNETS』、そして今回で三作品目。いつも、こちらがイメージした以上のものを音としてつくってくれて。
中村>クリエーションでは、ひとつのシーンのテンポ感みたいなのをまず彼に無音で見てもらって、同時進行で音楽をつけてもらっています。そこでできた音楽を受けて、また私たちがインスピレーションでやって。私たちが練習したものを彼が見て、また自分の音楽に置き換えたり、またこちらも変わったり……。
首藤>ひとつ振りをつくってはそれを彼に持って行ったりと、行ったりきたりして。
中村>スタジオで、私たちが動きをつくって、その都度彼に見せていく。本当に、動きと音楽が一緒の作業。リアルタイムで、同じ現場でつくっている感じですね。