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中村恩恵×首藤康之インタビュー!

2009年より創作活動を共にし、上質なデュエット作品を発表し続けている中村恩恵さんと首藤康之さん。この秋には、最新作『小さな家 UNE PETITE MAISON』、一昨年上演し高い評価を得た『Shakespeare THE SONNETS』の2作を披露し、さらなる境地を見せつけます。ここでは、10月に開幕を控えたお二人にインタビュー! 創作の過程、そして作品への想いをお聞きしました。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

バレエガイド

Aプログラムで発表する最新作は、建築家ル・コルビュジエをテーマにした
『小さな家 UNE PETITE MAISON』。コルビュジエに着目した理由は何だったのでしょう?

首藤>僕たちは2009年から一緒に仕事を始めて、これまでさまざまなプロジェクトをやってきました。その間二人でいろんなことを話している内に、コルビュジエの人生や、彼がつくったものにお互いが興味を持つ瞬間が度々あって。建築家や建築というものに興味があったり、水平や垂直というものに関心があったり……。
中村>私たちが一番最初に一緒に踊った『The Well-Tempered』もそうでした。あの作品は、コルビュジエの『モデュロール』という本の前書きに書いてあった、平均律や音の調律の仕方などが創作のインスピレーションになっていて。いろいろな所から、少しずつコルビュジエの考え方に学ぶことがあったというか。
首藤>そうですね。もしかすると、『The Well-Tempered』のときからジワジワとコルビュジエというテーマが膨らんできていたのかもしれない。
中村>ポンと決めたのではなくて、二人の間で徐々に近づいて行ったんですよね。
首藤>コルビュジエがテーマに決まってからは、彼の書き残した書物を読むことによって、ますます興味が沸いてきて。イメージと違う所があったり、イメージ通りだったり……。あと、ちょっと時間をつくって現地までコルビュジエの作品を見に行ってきました。彼が最後を過ごした休暇小屋があるフランスのカプ・マルタンやロンシャンとか。言葉では簡単に言い表せないくらい、いろいろ感じるものがありましたね。

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                                                         『The Well-Tempered』 撮影:MITSUO



創作に際し、建築家の安藤忠雄さんにお話をお聞きしたそうですね。

首藤>コルビュジエに対する想いのようなものを書いた安藤さんの本を読んだら、すごく感じるものがあったんです。安藤さん自身もコルビュジエと同じで、建築を学校で学んだことがなく、旅をしながら歩いて見て回ったことが学校だと言っていたり、コルビュジエと似たような人生を送ってる。またコンクリートを作品に多用したり、現代建築を代表する建築家と言われるなど、共通項が一杯あって。それに、安藤さんは自分の犬にもコルビュジエから取った名前を付けてたほど想い入れが深い(笑)。ぜひお会いして、コルビュジエの話だけでなく、建築というものに対する考えをお聞きしたいなと思ったんです。
中村>私たちは建築の専門家でもないし、建築についてアカデミックに勉強した訳でもない。コルビュジエという、専門家の方々にとってはすごく思い入れのあるテーマを扱うにあたって、何も勉強しないで取り組むのはとても怖くて。例えば本を読んでも、それがいい本なのか、偏った本なのかわからない。いろいろ手当たり次第に資料を探しても、何を参考にしたらいいのかと……。
首藤>資料にしても、書物にしても、書いた人のコルビュジエに対する想いが入っているから、どれだけ本当のことが書かれているかわからない。
中村>だからこそ、安藤さんのような方に一度お話を伺っておきたいと思って。信頼の置ける方に実際に話を聞いてからでないと、前に進めない感じだったんです。


安藤さんとはどんなお話をされたのでしょう?

中村>いろんなお話をしたけれど、なかでもすごく印象的だったのが、“芸術家は生き残ればいいという訳ではない。常に戦い続けなきゃならないし、新しい意味というものを今の時代に提示しなければいけない役割がある。その緊張感をどうやって持続し続けるか、継続し続けるか……”と言われたこと。その後コルビュジエのことを調べていけばいくほど、やはり同じことを彼の人生の全てをかけて言っていて。きっと、どういう分野でもそういうことって言えるのかなって思ったんです。芸術であろうとなかろうと、ただ生き残ればいいっていうものじゃないんだということを。
首藤>それでいて、創造というのはゼロからスタートするものではなく、見たもの、感じたものから伝えていくので、やっぱり何にしても好奇心を持っていることは必要だと。コルビュジエも自分で画を描いたりしていたけれど、ピカソなど他の芸術家の影響を受けて作品をつくっていたんじゃないかと思って。もちろん、つくるものはオリジナリティに溢れてるんですけど。だから、建築家という枠に留まらず、アーティストなんだなっていうのはすごく感じました。
中村>あと、安藤さんが言うには、究極は舞踊だと。“舞踊は難しい”って、何回もおっしゃっていましたね。
首藤>そうでしたね。安藤さんの感覚にあるのでしょうね。
中村>劇場の大きさとか、観客の人数とか、いろんなことを踏まえつつ、人間の本質を語るのに果たしてその入れ物が相応しいのか。もっと少人数の方がいいのかと悩んだり、でも金銭的な問題があったり。その全てを考えると、舞踊っていうのはすごく難しいと……。

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                      『Shakespeare THE SONNETS』 撮影:鹿摩隆司



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