ストレス/仕事・職場のストレス(パワハラ・セクハラ等)

「愚痴っぽい空気」の職場は、活気も生産性も落ちていく?

【産業カウンセラーが解説】「労働条件は悪くないのにやる気のある社員が少なく、生産性も上がらないのはどうしてだろう?」そんな悩みを持つ経営者は少なくありません。経営者には見えにくい「インフォーマル・グループ」が生み出す雰囲気に原因があるのかもしれません。「インフォーマル・グループ」と生産性の関係について考えてみましょう。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

「労働条件には問題ないのに、生産性が低い会社」の問題点

職場の活気も生産性も落とす「愚痴っぽい空気」

労働条件は良いのに社員にはやる気がなく、生産性も上がらない……。意外なことが原因になっているかもしれません


「うちの会社は給料も待遇も悪くない。それなのに、どうしてやる気のない社員が多く、生産性も上がらないのだろう」 経営者の方から時折、こうした話を聞くことがあります。職場環境は良好、報酬は業界平均を上回り、残業が多い訳でもない。つまり、会社は社員が不満に感じないような労働条件を提供している。それなのに、なぜ社員のやる気も生産性も上がらないのでしょう?
 
理由は様々かもしれませんが、しばしば考えられるのが、社内の「人間関係」。経営者の目には届きにくい「インフォーマル」な人間関係が影響しているのかもしれません。

「ホーソン実験」という有名な労働心理学の学説があります。20世紀初頭、ハーバード大学のメイヨーらによる研究グループが、大手電話機メーカーの工場において作業効率の実験調査を行いました。照明の明るさ、賃金や休憩、昼食の支給などについて、条件を変えて実験しましたが、決定的な差は現れませんでした。
 
以上のような「条件」よりも、生産性に決定的な影響を与えていたものがありました。それは、働く人たちの「人間関係」。組織内の人が自主的に自由につくる非公式の人間関係の集まりを「インフォーマル・グループ」と呼びますが、労働意欲はこのインフォーマル・グループの雰囲気に左右されていることが分かりました。
 

労働条件よりも会社の活気を左右する「インフォーマル・グループ」

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人間関係がギスギスして、雰囲気の悪い職場ではやる気は起こらない

部署やチームのように公式的に割り当てられた集団、すなわち「フォーマル・グループ」の陰には、いくつもの非公式な集団、すなわち「インフォーマル・グループ」が存在しています。

このインフォーマル・グループでは、愚痴を含めた本音の会話がたくさん交わされ、その雰囲気が職場環境に多くの影響を与えています。ですが、そうしたインフォーマル・グループが及ぼす影響まで把握できている経営者は、あまり多くないように思います。
 
たとえば、相性の悪いメンバーとチームを組まされたり、職場のなかにはちょっとした冗談を言い合えるような雰囲気もなかったり、不真面目な社員が野放しにされていて彼らのやりたい放題の雰囲気になっていたり……。このような職場では不満がたまりやすくなり、ほどほどによい給料をいただけたとしても「ここで頑張っていこう!」という労働意欲を保てなくなってしまうものです。
 
逆に人間関係が良好で、休憩時間には自由に楽しい会話が交わされていたり、楽しいイベントが自主的に催され、目標ややりたいことを活発に話し合えるような職場はどうでしょう? こうした職場では労働条件に多少の不満はあっても、「うちの会社はいい会社」「仕事が楽しい」と感じる人が増えていくのではないでしょうか。
 

「愚痴っぽい空気」は活気と生産性を下げる原因に

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愚痴っぽい雰囲気を放置していると「会社への不信感」へと話が展開してしまう

インフォーマル・グループの不満を放置していると、生産性は低下する一方です。とくに、会社や上司に対する不満がくすぶり、愚痴が蔓延しているような会社は、要注意です。
 
愚痴に含まれる本音を伝えあうことは、互いのストレスを解放し、問題解決の糸口を見つけるきっかけにもなるため、必ずしも悪いものではありません。ですが、愚痴が“蔓延”してしまうのは、愚痴を問題解決の手段として活用できるレベルではなくなっていると考えられます。すなわち「ここで前向きなアクションを起こしたところで、しょせん何も変わらない」といった、あきらめの気持ちが強くなっているものと考えられるのです。
 
そうした愚痴がインフォーマル・グループ内で蔓延するようになると、「集団極性化」という心理現象が起こります。つまり、ちょっとした愚痴をきっかけにして、会話が極端な方向に流れやすくなるのです。
 
たとえば、個人レベルでは「あの上司は少し変わってるのかも?」「うちの会社のここが少し良くないかもなぁ」程度にしか思っていなかったことをインフォーマル・グループで愚痴を交わし合っているうちに、「あの上司は無能で最悪!」「うちの会社はもう終わり!」というように、会話が極端な方向に流れやすくなるのです。
 
このように、インフォーマル・グループの中で愚痴を交わし合っていると集団極性化が進んでいき、上司や会社への憎しみの気持ちが生まれてしまうことがあります。こうなると生産性を伸ばすどころか転職を考える人が増え、退職者が続出してしまうことにもなりかねません。したがって、経営者は社内のインフォーマル・グループを把握してその雰囲気に意識を向け、「愚痴っぽい空気」を感じたときには、放置しないように気を配らなければなりません。
 
その一歩として、できることはたくさんあります。たとえば、社内で茶話会などを催し、役職や部署を超えてたくさんの人とざっくばらんに会話ができるようにしてみてはでしょう。ちなみに、先に紹介した「ホーソン実験」でも、インフォーマル・グループの雰囲気を改善するために、休憩時間にお菓子を提供したところ、生産性が向上する結果が得られました。

茶話会の場で愚痴や不満が出たとしても「社員からの貴重な意見」とすべてあたたかく受け止め、改善に役立てていくとよいでしょう。経営者がこのような姿勢を見せれば社員の愚痴も減り、インフォーマル・グループの雰囲気は良くなっていくでしょう。すると、仕事への意欲もしだいに高まり、職場をより良くするための前向きな意見がたくさん交わされて、生産性も向上していくものと思います。
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