労働環境はよさそうなのに、生産性が低い会社の問題点
「うちの会社は、好待遇な条件で採用していると思う。それなのに、どうして生産性が上がらないのだろう?」……企業の経営者の方からは、ときどきこんな話を聞くことがあります。
職場環境は良好、報酬は業界平均を上回っている、残業が多すぎる訳でもない……つまり、会社は社員に喜んでもらえるような労働条件を提供している。それなのに、なぜか社員のやる気も、生産性も上がってこないという企業があります。
理由は様々かもしれませんが、しばしばその答えのカギを握っているのが、社内の「人間関係」。とりわけ、社長の目には届きにくい「インフォーマル」な人間関係が、この問題に影響している可能性は低くありません。
ここで、「ホーソン実験」という有名な労働心理学の学説をご紹介しましょう。20世紀初頭、ハーバード大学のメイヨーらによる研究グループが、大手電話機メーカーの工場において、作業効率の実験調査を行いました。まず照明の明るさと作業効率との関係を調べましたが、大きな差は現れませんでした。また、賃金や休憩、昼食の支給など、時間的条件や経済的条件を変えて実験してみましたが、決定的な差は現れませんでした。
では、そうした「条件」よりも生産性に影響を与えていたものとは、何だったのか? それは、働く人たちの「人間関係」だったのです。つまり、一緒に働く者同士がコミュニケーションを取り合いながら、よい雰囲気で働くこと。このように、ある組織内にいる人が自主的に、自由につくる非公式の人間関係の集まりを「インフォーマル・グループ」と言いますが、労働意欲はこの集団の雰囲気に左右されることが分かりました。
労働条件よりも会社の活気を左右する「インフォーマル・グループ」

人間関係がギスギスして、雰囲気の悪い職場ではやる気は起こらない
しかし、いくらよい労働条件を与えていても、その会社で働く人たちの雰囲気が悪ければ、生産性は低下してしまいます。
たとえば、相性の悪いメンバーとチームを組まされる職場。冗談や世間話を交わし合う相手もいない職場。不真面目な社員が野放しにされ、雰囲気を乱している職場……。こんな職場では、そこそこよい給料をもらっていても、社員のやる気は失せ、仕事で工夫をしてみたり、能率を上げてみよう、などいう気持ちなど湧かなくなってしまうでしょう。
逆に、チーム内の仲がよく、「最近大変そうだね。手伝うよ」「一緒にやっていこう」といった言葉が飛び交う職場。食事会などが社員同士で自主的に催され、仕事の目標や会社でやりたいことを、自由に楽しく話し合える職場はどうでしょう? こうした職場なら、仲間に恵まれ、仕事を楽しく感じるはず。そのため、多少労働条件に不満はあっても、「頑張って働こう」と思うものではないでしょうか?
「グチっぽい空気」は活気と生産性を下げる原因に……

グチっぽい雰囲気を放置していると「会社への不信感」に発展する
そもそも、「仕事にグチはつきもの」と言われます。グチは鬱屈を解放し、直面している問題を明確にし、解決の糸口を見つけていく機会でもあるのです。
しかし、そのグチが“蔓延”してしまうのは、「アクションを起こしたところで、所詮何も変わらない」という、落胆とあきらめの気持ちが強いからでしょう。そうした会話が仲間内で飛び交うようになると、「集団極性化」が起こります。つまり、集団の中で議論を重ねることで、個人で思っているときよりも、極端な結論に流れやすくなるのです。
たとえば、個人レベルでは「あの上司、ちょっとなぁ」「うちの会社、大丈夫かな?」くらいに思っていた考えが、集団の中でグチのやりとりをしているうちに、「あの上司は自分勝手で無能!」「うちの会社はダメな会社」というように、極端な意見にまとまりやすくなる傾向があるのです。
このように、ちょっとしたグチから“不信感”に発展していくことは、少なくありません。こうなると、生産性どころの話ではありません。惰性で仕事、退職者が続出――社内は、いつしかこんな雰囲気に変わってしまうでしょう。したがって、企業のトップの方は、社員の人間関係やその雰囲気に目を向け、「グチっぽい空気」を放置しないように、気を配らなければなりません。
そのための第一歩としては、社員同士の「横のつながり」を奨励しつつも、「上下のコミュニケーション」も大切にすること。グチや不満も含めて社員の話によく耳を傾け、意見を「聞きっぱなし」にせずに、改善に役立てること。
上司がこうした姿勢を見せれば、社員のグチも減って、インフォーマル・グループの雰囲気は良くなっていきます。すると、労働意欲も高まり、生産性も向上していくと思います。