Q:ダンス・ワークショップの講師は、勅使川原さんや佐東利穂子さんらカラス(勅使川原さん主宰のカンパニー)のメンバーが務めるとのこと。みなさんから直々に教われるとは、非常に贅沢な経験ですね。
勅使川原>ワークショップでは、全ての方に正直に対応します。例えば僕らが動きを見せて、“これをマネしなさい”ということは絶対にしません。それをやっても意味がないし、形だけになってしまう。それぞれの参加者にそれぞれの経験やキャリア、考え方、ここに来る理由があるだろうし、みんな違っていていい。問題は、その人自身が課題にどう向き合うかということ。たとえ上手くいかなくても、上手くいかないということに正直に付き合っていけば、必ずその人は課題が見つかる。また課題が見つかると、上手くいくようになる。逆に上手くいかないときに、上手くいってるフリで誤魔化してしまうと、いつまで経ってもわからないまま時が過ぎてしまう。そうすると自分の中で実感できず、周りとの誤差を感じるようになり、結果として興味がなくなってしまう。これはある種のパターンであり、ワークショップだけではなく、人間一般的なものでもありますよね。
やはり人間は正直に、ミスをしたらミスしたと明確にしなければいけない。ミスは直せばいいし、直ったらもう一度振り出しからやり直せばいい。あるいは人の言うことを聞いてそこに向かえばいいし、疑問を持ったらきちんと尋ねて、それを自分のためにどうするか答えを出せばいい。きちんと質問して、答えを出す。
内面的にも身体の動きとしても、結局正直にやることが一番。時間はかかるけど、実はそれが一番確実で、実感もでき、喜びや、やる意味もより出てくる。たった一年でも随分人は変化するもの。だけどズレが生じてしまうと、何となく通ってるだけになり、結局遠回りになってしまう。遠回りに感じても、正直にやる方が結果としては近道なんです。
アパラタス B1Fスタジオ ph Ryunosuke Kazama
Q:ワークショップは初心者でも参加できますか?
勅使川原>大歓迎です。クラスのレベル分けはしていません。今後必要だったらやりますが、特に設けなくていいと思います。アパラタスでのワークショップの他に、12歳から18歳までを対象にした東京芸術劇場でのワークショップや、40歳~75歳の人たちに向けた特別なワークショップをやっていて、その全てに同じメソッドで教えています。プロにしてもそう。10月にパリオペラ座バレエ団で振付をしますが、そこでやるワークショップも全く同じ。過去にはフランクフルトバレエ団やネザーランド・ダンス・シアター、ジュネーブ・バレエ団、ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場バレエ団にも振付をしたけれど、ワークショップはいつも同じメソッドです。ワークショップでは、僕の基礎的なメソッドを体験してもらいます。大切なのは、短期ではなく、継続的にすること。ダンスというのは継続して理解するものだと思うし、自分を高めるには時間がかかります。プロの方やキャリアのある方も全く同じことをやりながら、自分自身の繊細な感覚、身体をもう一回見直します。動きがどのように生まれるか探ったり、課題を明確にしたり。そうしたことは、キャリアに関係なくできます。
勅使川原三郎振付・演出 パリ・オペラ座バレエ団公演『AIR』 ph Icare
Q:ワークショップ参加者が公演に参加したり、カラスのメンバーになれる可能性はあるのでしょうか?
勅使川原>もちろんあります。実際、カラスのメンバーの99.99%がワークショップ出身者です。僕は立教大学で教えていますが、そこの卒業生がいたり。みんなワークショップを理解して、僕が身体をどう考えているか、芸術の根本についてどのように思うのか、そして自分自身をこれからどう活かしていくかということを、ダンスメソッドを通して学んでいます。Q:公演を観るごとに、メンバーの成長ぶりに驚かされます。これは、ダンスメソッドの成果ということでしょうか。
勅使川原>やはり、土台・基礎をきちんとやるからだと思います。土台ができれば、日々の積み重ねが可能になる。けれど土台なしにその時々の想いや流行、気分、空想したことだけでは、積み重ねにならない。僕らの時代が、いかに積み重ねが大事か。しかし今は積み重ねが難しい時代で、“これがいいよ”“こっちはどうだい?”と、情報ばかりが反乱してる。僕はできる限り丁寧に、素手で、自分のテンポで積み重ねます。丁寧に積み重ねないと崩れてしまう。大事に積み重ねることを考えて、丁寧な手つきで、時間がかかってもやる。崩れたら、またやり直せばいい。それが、僕のメソッドの根本にある考え方です。そこで養うものは強さであり、強さは柔軟性でもある。決して押しが強いとか、キャラクターを強そうに見せるといった意味ではありません。強さとはフレキシビリティであり、何事にも対応できる粘り強さがあることは、若い人には特に大切なことだと思うんです。
『ダブル・サイレンスー沈黙の分身』 ph Bengt Wanselius