ユヴァスキュラ市民の暮らしに溶け込んだアルヴァ・アールトの建築群
自然と共存する建築を目指すアールトのデザインした、森の見える大きなガラス窓が特徴のユヴァスキュラ大学内のカフェ。学生だけでなく、一般市民らも気軽にお茶しに来ることができる
フィンランドを代表する近代建築家として日本にもファンの多いアルヴァ・アールト(Alvar Aalto/1898-1976)。国際的に通用する機能重視の建築を目指したいっぽうで、フィンランドの風土と文化をこよなく愛し、人びとの欲求や周囲の自然景観や地形を生かした温かみのある建築の追求にも熱心だったことで知られています。
彼は幼少期に両親とユヴァスキュラに移り住み、高校卒業までの日々をこの街で過ごしています。大学卒業後には再びユヴァスキュラに舞い戻り、ここに最初のオフィスを構えてキャリア作りを開始しました。さらにオフィスや自邸をヘルシンキに移してからも、ユヴァスキュラ近郊の美しい自然を愛してやまなかったアールトは、当時はまだボートでしか到着できないような島にある湖畔の森にサマーハウスやサウナを建設。夏至祭後の一ヶ月間は毎年そこで妻と悠々自適な休暇を満喫していたのです。
街のオーケストラや劇団が公演を行なう劇場もアールトが設計したもの
このように、アールトとユヴァスキュラの街は生涯を通して強い縁で結ばれています。そして当然ながら、彼は愛着ある街のために数多くの公共建築を設計しており、その多くの建物が今でも修復を重ねながら市民に大切に使われているのです。
ユヴァスキュラでのアールト建築巡りは世界中の建築ファンにとっての憧れ。とりわけ、彼のサマーハウス(コエタロ)が一般公開される夏場には、多くの視察客が街を訪れます。主要な建物では、観光客に対してスタッフによるガイドサービスなども積極的に行なっています。
彼の後の作風からは想像もつかないような、北欧古典主義の労働者会館
街の中心部で見られる代表的な作品を挙げていくと、駆け出しの1920年代に設計された最初の公共建築である
労働者会館(Aalto Sali ※見学は要事前予約)や、戦後約20年にわたって建設の進められた
ユヴァスキュラ大学セミナーリマキ・キャンパスの建築群(Jyväskylän yliopisto)、アールトの作品としては珍しい
市民プール・アールトアルヴァリ(Vesiliikuntakeskus AaltoAlvari)、展示物も見応えのある
中央フィンランド博物館(Keski-Suomen museo ※2019年まで改修工事中)、アールト死後に妻のエリッサが遺志を引き継いで完成させた
市立劇場(Jyväskylän kaupunginteatteri)など。
これらはすべて現役で利用されている公共建築なので、利用者やイベントの迷惑にならない限りで見学が許されていますが、いち利用者という立場で、泳いだり観劇したり、実際にその魅力を「身を置いて」探ってみるのもおもしろいでしょう。
バスに乗ってユヴァスキュラ郊外のアールト建築めぐりへ
円熟期のアールトの代表作のひとつとして有名なセイナッツァロの村役場
いっぽう、ツーリストメーションセンター前のターミナルから発着している市バスで郊外に出ると、ゲストハウスに宿泊も可能な
セイナッツァロの村役場(Säynätsalon kunnantalo ※2017年より一般公開は5~9月のみ)や、若き日の北欧古典主義の特色が濃く残っている
ムーラメの教会(Muuramen kirkko)、夏の間のみ見学可能なアールトのサマーハウスである
ムーラッツァロの実験住宅(Muuratsalon koetalo)などにアクセスすることもできます。
ガイドツアーに申し込むことで夏の間だけ見学可能なムーラッツァロの実験住宅
このように、ユヴァスキュラ市街やその周辺には、建築家アールトの生涯にわたるさまざまな年代の作品が寄り集まっているのですが、バスの便数が非常に少ないこともあり、タクシーやレンタカーを貸しきらない限りは、すべてを見て回るのに1日では足りないでしょう。滞在時間が限られているのであれば、目的地を定めてアクセス方法を事前にしっかり検討し、計画的に見て回ることをおすすめします。
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ユヴァスキュラ市内および近郊のアールト建築マップ
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