100%バレエの日々
バレエダンサーにとって、テクニックはもちろん、大切なのは与えられた役を生きること。米沢さんがその糧としているのは、最大の趣味でもある映画や観劇から得る数々の想い。「普段からいろんなものを観て、吸収するように努めています。いろいろ溜めておかないと、いざというときに出てこないと思うから。あとは、何か悲しいことがあったなら、それを客観的に見るようにしたり……」
新国立劇場で上演される芝居やオペラをはじめ、小劇場や名画座まで。観る作品やジャンルも実に幅広く、休日はたいてい劇場に足を運んで過ごしている。
「父の影響がかなり大きいと思います。連れられて、小さい頃から芝居小屋や赤テントを観に行ってたので。舞台はとにかく好きで、お金があるだけチケットを買ってしまうから、もう本当に観劇貧乏です(笑)」
米沢さんのお守り。“いのちがけとは、全身の力を注ぎこんで、これをしとげたら死んでもいい、いや途中でも、という熱意でやること”と書かれている。 「父が亡くなってなってから父が書いたメモが出てきて……。父の人生そのもののような気がしたので、壁に貼って毎日見ています」
お父様は演出家として知られる竹内敏晴氏。 畑は違くとも、同じ舞台人と して学ぶことは多かった。
「父はずっと舞台のことで生きていたひとで、その姿勢は門前の小僧で私も学んでいると思います。バレエのことはわからなくても、舞台に出てきたときの立ち方や存在の仕方にはすごくうるさかったですね。ただ、ものすごい親バカだったので、私が小さい頃から“この娘には才能がある”“将来いいダンサーになる”ってずっと言ってました(笑)」
2012年に昇格し、現在のポジションはファースト・ソリスト。6月公演『ドン・キホーテ』や10月公演『火の鳥』の主役など、主要な役を任される場も増えた。シーズンともなれば、緊張の絶えない日々が続く。米沢さんにとって、プライベートでのリフレッシュ法とは?
「唯一の気分転換法は、銭湯に行ってサウナに入ること。遊ぶのがとにかく苦手なんです(笑)。旅行に行っても何をしていいかわからない。誰かとゴハンを食べに行こうにもどうしたらいいかわからない。休日もひとりで映画を観に行くくらいなので、オフとオンがあまり変わらない気がします。できれば、ずっとレッスンしていたいくらい。リハーサルが終わると、“あぁ、早く明日にならないかな”って思っちゃいます(笑)」
まさにバレエ一色の日々。そんな彼女にとってのアイドルは、やはりバレリーナ。なかでも、神と崇める憧れのダンサーがいる。
「私の神様はシルヴィ・ギエム! 小学生のころからずっと好きで、コンクールの前には必ずギエムのビデオを観るのが小さい頃からの習慣でした。昔観てた作品を今もう一度見直すと、あのとき気がつかなかった彼女のスゴさを発見して、ああやっぱり偉大だなって思いますね」
『solo for 2』 撮影:鹿摩隆司
「楽しかったです。コンテンポラリーのダンサーって、“え、どうなってるの?”っていう動きをするじゃないですか。普段あまりない踊り方をして、“へー、身体ってこんな風に動くんだ”って発見をしたり、“あ、スゴイな”って思ってた動きを自分自身が体験すること自体が面白くて。コンテンポラリーはまた是非やってみたいなって思います」
もちろんそのベースには、クラシックありき。彼女には、かねてから憧れ
『ジゼル』 撮影:瀬戸秀美
「小さい頃からの夢が、大好きな『ロミオとジュリエット』と『ジゼル』を踊ること。『ジゼル』は叶ったので、いつかジュリエットが踊れたらいいなって思ってるんです……」
アメリカで壁に突き当たったバレエダンサーへの道。その後は迷うことなく邁進するのみだ。
「ひとつの作品が終わるとすぐ次の壁があるので、今はとにかく一生懸命走ってる感じです。迷ってる時間はないというか……。昨日よりいい舞台を今日やりたい。いいダンサーになりたい、とにかく上手になりたい、そればかり考えてます」
3歳でバレエを始めて、以来バレエに魅せられ続けてきた。まさに、寝ても醒めてもバレエ漬け。米沢さんを占めるバレエのパーセンテージは? と尋ねると、「100%です。それは、今も昔も変わらずです」とキッパリ。
「たぶん、不器用なんだと思います。バレエを踊るのも、全力投球じゃないと楽しくない。そんなに大きな夢がある訳でもないし、誰かのために踊ってるとか、何かを伝えたくて踊ってる訳でもない。ただ踊るのが好き。舞台に出たいから、踊りたいから踊ってる、それだけですね。私はやっぱり、全身でガッと向かわないとダメ。生きてる感じがしないんです(笑)」
『白鳥の湖』 撮影:瀬戸秀美