司法書士試験の基準点とは?
司法書士試験の試験制度の中で、最も怖いものが「基準点」というものです。「基準点」という名称ですが、要は「足切り点」のことです。司法書士試験の概要…日程・試験科目・配点・出題数の記事で、「試験を午前と午後の2つに分けるのではなく、「1.午前択一」「2.午後択一」「3.記述」と3つに分けて考えてください」とご説明しました。その理由が、この基準点です。3つそれぞれに基準点が設けられています。- 午前択一
- 午後択一
- 記述
これら3つのうち、どれか1つでも基準点に満たなければ、他の2つが満点であっても、不合格となります。よって、これら3つのすべてについて、基準点以上の点数を取ることは、合格の絶対条件となります。では、具体的に基準点をみていきましょう。過去5年間の基準点および合格点は、以下のとおりです。
【基準点および合格点】(平成30年度~平成26年度)
グラフにしたほうがどのように変化しているのかイメージしやすいので、「午前択一」「午後択一」「記述」の基準点の推移のグラフも示しておきます。
*択一と記述の基準点を比較するため、単位は%にしています。
では、ここからは、「午前択一」「午後択一」「記述」の3つに分けて基準点をみていきます。
午前択一
まずは、「午前択一」の列をご覧ください。午前択一の基準点は、以下の範囲で推移しています。午前択一(問題数35問):25問(71.4%)~30問(85.7%)
非常に点数が高いことがおわかりいただけるでしょうか。午前択一の問題数は35問ですが、80%程度の点数を取らなければ、午後択一および記述が満点であっても、それだけで不合格となります。平成27年度にいたっては、基準点が30問(85.7%)ですので、80%の点数を取った受験生の方も不合格となりました。 これは、他の試験では滅多にみられないハードルの高さです。
ただし、平成27年度の30問(85.7%)は、司法書士試験の中でも異常な高さの基準点です。ここまで高い基準点となったのは初めてでした。これは、平成27年度の問題がかなり易化したからでした。その後は平成28年度と平成29年度の25問(71.4%),平成30年度の26問(74.3%)と、司法書士試験の歴史の中では低い水準の基準点が続いています。平成25年度以前は、午前択一は、大体「26問(74.3%)~28問(80.0%)」の間で基準点が推移するのが通常でした。
それでも、70%はきっていませんので、ハードルはかなり高いです。
択一に関していえば、司法試験や予備試験よりも司法書士試験のほうが難易度が高いと私は考えています。単に取らなければならない点数が高いだけでなく、問題自体の難易度も考慮しての考えです。これには反対意見もあり、また、試験科目や問題の性質も異なるため、比較をすること自体ナンセンスという意見もあるかもしれませんが、司法書士試験の択一が、司法試験や予備試験よりも明らかに簡単であると言い切れる人はいないでしょう。
午後択一
次に、「午後択一」の列をご覧ください。午後択一(問題数35問):24問(68.6%)
午後択一の基準点が24問と決まっているわけではないのですが、直近5年間は24問となっています。午後択一は、通常は午前択一よりは基準点が低くなります。ただし、午後択一のほうが基準点が低くなるといっても、70%前後の点数が求められますので、他の試験では滅多にみられないハードルであることに変わりはありません。
午後択一のほうが基準点が低くなる理由は、問題の難易度が難しいからではありません。むしろ、過去問(過去に実際に司法書士試験において出題された問題)と同じ知識が出題される割合は午後択一のほうが高いことが多いので、問題自体の難易度は午後択一のほうが低いといえます。午後択一のほうが午前択一よりも基準点が低くなる理由は、解答にかけられる時間にあります。解答にかけられる時間は、以下のとおりです。
- 午前択一(問題数35問):120分
- 午後択一(問題数35問):70分
同じ35問(分量も大差はありません)であるにもかかわらず、午後択一は半分近くの時間で解答しなければなりません。午後の180分の時間内に記述も解く必要があり、近年の記述の問題には最低110分程度はかけたいところなので、午後択一に使えるのはマックスで70分となります。60分で解く合格者の方も多いです。午後択一は、午前択一よりも知識問題が多いため、解答時間は短くて済むものの、午前択一の半分近くの時間で解くのは、やはり十分な時間があるとはいえません。
記述
続いて、「3.記述」の列をご覧ください。記述の基準点は、以下の範囲で推移しています。記述(70点):30.5点(43.6%)~37.5点(53.6%)
記述は、択一よりも基準点が低くなります。ここに表示されていない年度(ex.平成18年度)ですと、60%台であったこともありますが、近年は60%の得点で基準点はまずクリアーできます。今後も、60%程度の得点を取っておけば、基準点に届かないことはないでしょう。
基準点を取るだけでは合格できない
基準点をみてきましたが、合格するには基準点を取るだけでよいわけではありません。表の「基準点合計」の列と「合格点」の列に開きがあるとおり、基準点から19.5点(平成26年度・平成27年度)~26.0点(平成29年度)上乗せしなければなりません。午前択一、午後択一または記述のどこで上乗せをしても構いませんが、 択一(1問3点)で上乗せをするならば、7~9問分必要となるのが近年の傾向です。この上乗せ点は、年々増加しています。かつては、択一で5問程度でした。原因は、受験者数が減少するなか、午前択一と午後択一の基準点を突破する受験生の方の割合が高くなったからです。午前択一と午後択一の基準点を突破した人のみ記述の採点がされるのですが、記述の採点がされる人数は2000~2200人程度とほとんど変化がありません。
司法書士試験は難易度が高い!? 合格率は3%の記事に書きましたが、司法書士試験の合格者数は割合で決まります。そうすると、午前択一と午後択一の基準点を突破する人数を増やすと、上乗せ点を高くして総合点でふるい落とす人数を増やさないといけなくなるのです。
司法書士試験の難易度を上げているのは基準点
上乗せ点は高くなってきていますが、司法書士試験の難易度を上げている最も大きな要因は、やはり「午前択一」「午後択一」「記述」のそれぞれに基準点が設けられていることです。これら3つのうちのどれか1つが基準点に満たずに不合格になる方は、かなりの数に及びます。「午前択一で基準点に1問足りなかった」「記述で基準点に0.5点足りなかった」などという声は、毎年大変多く聞きます。「総合点では合格点を超えているのに、記述で基準点に0.5点足りなかったために不合格となった」ということもあります。よって、普段の学習も、本試験での時間配分も、とにかく“バランス”が重要となります。この3つを早い段階で揃えることができた人が、短期合格者となることができます。それには、計画と戦略が必要です。
(参考)過去の基準点の推移
最後に、基準点が発表されるようになった平成14年度以降の基準点を記載しておきます。*左から「午前択一」「午後択一」「記述」の順で基準点を表示しています。
(平成30年度)26/35問 24/35問 37.0/70.0点
(平成29年度)25/35問 24/35問 34.0/70.0点
(平成28年度)25/35問 24/35問 30.5/70.0点
(平成27年度)30/35問 24/35問 36.5/70.0点
(平成26年度)26/35問 24/35問 37.5/70.0点
(平成25年度)28/35問 27/35問 39.0/70.0点
(平成24年度)28/35問 26/35問 38.0/70.0点
(平成23年度)26/35問 24/35問 39.5/70.0点
(平成22年度)27/35問 25/35問 37.5/70.0点
(平成21年度)29/35問 25/35問 41.0/70.0点
(平成20年度)28/35問 26/35問 19.5/52.0点
(平成19年度)28/35問 28/35問 30.0/52.0点
(平成18年度)27/35問 25/35問 31.5/52.0点
(平成17年度)29/35問 26/35問 25.5/52.0点
(平成16年度)26/35問 24/35問 31.5/52.0点
(平成15年度)28/35問 24/35問 36.0/52.0点
(平成14年度)27/35問 25/35問 32.5/52.0点
*記述の配点は、平成20年度までは52.0点でしたが、平成21年度以降70.0点になりました。
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