今回は誰でも一度や二度は経験するだろうつらい恋愛での別れの場面に、あなたをきっと慰めてくれるジャズ・JAZZ、別れの曲……ベスト3をご紹介します。
あなたに、最初におすすめするのはこの一曲です!
Torch
有名シンガーソングライター、カーリー・サイモン「トーチ」より「ハート」
カーリー・サイモンはいわゆるジャズシンガーではありません。むしろフォーク系ポップスの世界で有名な人。グラミー賞や、アカデミー歌曲賞も受賞している人気シンガーです。このCDはその違う畑とも言えるカーリーが、失恋の歌をジャズ風なアレンジで歌ったものです。CDの題名の「トーチ」はもちろん「トーチソング」(失恋の歌)からきています。
ここでは是非ともセクシーなカーリーのジャケットを見ながら六曲目「ハート」を聴いてください。ドラムのきっかけから入るテナーサックスのイントロは有名テナーサックス奏者のマイケル・ブレッカーです。
ジャズというよりもポップス畑での仕事が多かったこの当時のマイケルのテナーは、ジョン・コルトレーンの影響を色濃く感じさせつつも、よりブルージー(ブルースっぽく、ほどよく泥臭いフレーズ)。
それだけに、こういった歌物のテナーサックスによる伴奏では右に出る人はいません。ここでも、ストリングスをバックにこれしかないという位キマッたフレーズと、艶のあるウエットな音色でカーリーを盛りたてます。
いよいよお待ちかねのカーリーによる「I'm hurt , to think that you lied to me 」(私は傷つくの、あなたが嘘を言ってると思うだけで)という歌いだしです。ジャケットに写るカーリーのままに、恋する大人の女性の色気と悲しみでいっぱいです。
「私たちの愛は本物だ、絶対別れない、あなたはそう言ったわ、でも今のあなたは他の誰かを探しているのね」カーリーは、こんなことは言いたくない、けれど言わずにはいられないという女心を切々と歌い上げます。
間奏は、イントロが印象的だったマイケル・ブレッカーのテナーサックスです。そのマイケルの感傷的なテナーソロに呼応するかのように、ウォーレン・バーンハートによるピアノのバッキングが熱を帯びるさまが聴きどころです。
良家の出身で歌の上手いカーリーでも、失恋の痛手は皆と同じ。このカーリーの心の叫びに共鳴できるあなたがきっといるはずです。
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次に、おすすめするのはこの一曲です!
ワーキン
超有名トランペット奏者、マイルス・デイヴィス「ワーキン」より「イット・ネバー・エンタード・マイ・マインド」
このCDは、ジャズにしては一曲目からバラードが入っているという珍しいアルバムです。ぜひその一曲目「イット・ネバー・エンタード・マイ・マインド」から聴いてください。
録音は1956年10月26日。もちろんCDはまだなく、レコードの時代でした。もともとレコードの時代にリリースされたアルバムは、表裏のA面とB面という規格上のしばりがあり、しかもレコードプレイヤーだったため、CDのように便利に1曲だけ聴くという事はあまり一般的ではありませんでした。
それだけに、曲順は大事。本来ならば、一曲目はテンポの良い一番乗りやすい曲を持ってきて、バラードはA、B両面の二曲目が定席です。そこに、あえて一曲目にバラードを持ってきたセンスと自信に溢れた演奏と言えます。
ピアノのレッド・ガーランドによる美しいシングルトーンのイントロに続いて、ミュートのかかった独特の金属的な音色で、マイルスがテーマを奏でます。ここでのマイルスは、テーマをあまりくずす事無く、ストレートに歌います。
この「イット・ネバー・エンタード・マイ・マインド」には、メンバーは違いますが、同じマイルスによる、二年半前に録音した演奏があります。こちらでもマイルスはミュートを用いていますが、音質がより生音に近く、印象はより柔らかでリリカル。この「ワーキン」の凝縮した硬質の音色とは明らかに違っています。
どちらの演奏も甲乙つけがたいですが、この「ワーキン」の演奏の方が、ほろ苦いこの歌の歌詞の内容には合っているように感じます。
「昔は、たわいもない事で笑ったけど、今はお互い関心が無くなった」という歌詞には、かつては愛し合っていた恋人同士がたどった現実が歌われています。残酷とも言える二人の共通の時間の劣化に対して、突き放しながらも、少しさびしく、直接的な表現を避ける大人の感性に溢れています。
歌詞に出てくるオレンジジュースやメイデンズ・プレイヤー(ジンベースの柑橘系カクテル)はいらないわ、という気持ちは理解できます。自分がそうだったら、きっとオレンジの香りがする度にお互いを思い出しつらい事でしょう。
でも、失恋は、きっと時間が解決してくれます。二人の思い出がセピア色になるまで、このビターなマイルスの演奏に浸るのも良いかもしれません。
次におすすめする曲は次ページでご紹介いたします。
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