「初鰹」は粋の証
初鰹は、たたきが人気。薬味をたっぷりかけてさっぱり頂こう
「初鰹」人気を不動のものにした理由のひとつに、「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」という句があります。この句は、江戸中期の俳人・山口素堂(1642~1716)の作で、春から夏にかけ江戸の人々が最も好んだものを、視覚の「青葉」、聴覚の「ほととぎす」、味覚の「初鰹」で詠んでいます。
江戸っ子の間では、初夏に出回る「初鰹」を食べるのが粋の証となり、初鰹を食べると長生きできると大変珍重されました。江戸の初鰹は鎌倉あたりの漁場から供給されたため、松尾芭蕉(1644~1694)は「鎌倉を生きて出でけむ初鰹」と詠んでいます。
当時は極めて高価だったため、「まな板に 小判一枚 初鰹」と宝井其角(1661~1707)にうたわれるほどですが、粋を重んじ見栄っ張りな江戸っ子にとって「初鰹は女房子供を質に置いてでも食え」と言われるほど愛すべきものでした。こうした話が受け継がれ、現代の初鰹ニーズにつながっています。
心と体で食べる日本人
こうしてみると、旨さや栄養分以上に、初物によって満たされる気持ちに目を向けていたことがわかります。だったら、そんなにこだわる必要はないだろうって? いえいえ、「気」をとても重要視し、さまざまな物事の根底に据えるのが日本文化の特徴です(このへんのことは、また改めて記事にしたいと思います)。季節を感じ、心と体に栄養を与えるからこそ、初物が愛され続けているのです。「暮らしの歳時記」トップへ
<関連記事>
■お彼岸の「ぼたもち」「おはぎ」どう違う?
■なぜ八十八夜が話題になるの?
■なぜ端午の節句に柏餅やちまきを食べるの?
■なぜ「土用の丑の日」にうなぎを食べるの?
■土用餅!? 鰻だけじゃない、土用の食べ物と風習