残念ながら、いまだ「不動産業はクレーム産業」だ。
無論、購入者など消費者の過誤による場合もあり、常に業者側に失念や過失があるわけではありませんが、取引上のトラブルは一段と複雑化・深刻化しており、不動産業の“信頼産業化”が叫ばれています。
そうしたなか、今年3月12日には東京・新宿区内のある宅建業者が、宅建業法違反により東京都から67日間の業務停止処分を言い渡されました。その違反内容は次の通りです。
【取引内容】
- 宅建業者Aは自ら売り主として、2012年12月28日に買い主Bとの間で東京都墨田区内の分譲マンションの売買契約を締結した。
- 重要事項説明書に、代金に関する金銭の貸借のあっせん内容の記載をしなかった。
- 買い主Bから中間金を受領したが、売買契約締結の際に受領した手付金と併せ、これら合計額が売買代金の10%を超えるにもかかわらず、宅建業者Aは保全措置を講じなかった。
- 買い主Bが手付放棄による契約解除の意思を示し、中間金・諸経費の返還を求めたが、宅建業者Aは正当な理由なく応じなかった。
保全措置の適否の根拠となる金額には、中間金など手付金以外の金銭も含まれる
では、今回の違反内容を題材にしながら、消費者がトラブルに巻き込まれないための注意点を見ていきましょう。違反内容の2番目にある保全措置とは、売り主(宅建業者)の倒産などによって契約の目的(住宅の引き渡し)が達成できなくなった場合、すでに買い主(消費者)が支払っている手付金などが返金不能にならないよう、保証機関や保険事業者などの第三者に手付金などを管理してもらう措置のことです。宅建業法では「宅建業者は、宅地または建物の売買で自ら売り主となるものに関しては、所定の保全措置を講じた後でなければ、買い主から手付金などを受領してはならない」と規定しており、宅建業者が保全措置を講じないときは、買い主は手付金などの支払いを拒むことができます。
この保全措置には適用除外があり、保全措置を講じなければならないのは【図表】に当てはまる場合となります。今回のケースでは分譲マンションはすでに完成しており、買い主が10%超の金銭を支払ったため、その金銭を受領した宅建業者Aは保全措置を講じなければなりませんでした。にもかかわらず、業法に違反したとして業務停止命令が言い渡されています。仮に、買い主が10%以下の金銭しか支払っていなければ、宅建業者Aに保全措置を講じる義務はありません。
手付解除しても没収されるのは手付金だけ 中間金は没収の対象外で返還される
契約書にはしっかり目を通し、きちんと理解したうえで押印しよう。
解約手付とは、一度は有効に成立した売買契約を一方的に解除したいと思ったとき、すでに支払った手付金を放棄する(没収される)ことで、契約の相手方が契約の履行に着手するまでの間であれば、いつ・いかなる理由であろうと契約解除できるという趣旨で授受される手付のことです。一定の期間までなら、いつでも自由に契約を解除できる解除権留保の手段として交付される金銭です。そして、この趣旨に従い、今回のケースでは買い主から手付放棄による契約解除(手付解除)の申し出がありました。
この手付解除のルールに基づき契約を解除する場合、没収されるのは手付金だけです。たとえ中間金や諸費用を事前に支払っていたとしても、これらは返還されなければなりません。前述のように、手付金には解約手付としての性格がある一方、中間金や諸費用には解除要件としての金銭的性格は具備されていないからです。
にもかかわらず、正当な理由なく返還に応じなかったため、宅建業者Aは業務停止処分を言い渡されました。手付解除しても没収されるのは手付金だけで、中間金は没収の対象外となり返還されることを覚えておいてください。