顧客の創造
ドラッカーに学ぶ……「顧客の創造」は企業の第一の目的
では、企業の目的は何でしょうか。売上や利益をあげることが企業の第一の目的でしょうか。ドラッカーは企業の目的の定義は一つしかない。それは「顧客を創造すること」だと言います。つまり、顧客の集合体としての市場を創り出すことが企業の目的だと言うのです。企業にとって大切なのは「顧客第一主義」、つまり企業は「顧客満足」を追求すればよいと多くの人が思っています。しかし、ドラッカーに言わせれば「顧客満足」ではダメなのです。なぜダメなのか。それは社会が生き物だからです。
生き物の特徴は変化することです。そしてその変化の先行きはだれにもわかりません。変化しつづけその変化の先行きのわからない社会において生き残っていくには顧客満足では遅すぎます。企業自らが市場を創造し、未来を創り出していかなければならないのです。ドラッカーは、市場は神や自然や経済の力で生み出されるものではなく、ビジネスに関わる人達が作り出していくものだと言います。
「顧客満足」ではなく「顧客を創造すること」が新しい市場を作る
「顧客満足」ではダメなもう一つの理由は、顧客の欲求は顧客自身がそれを明確に認識していないことが多いからです。ドラッカーはコピー機やコンピューターを引き合いに出し、それらが誕生するまではそれらの機器を具体的に欲求していた顧客はいなかったと言います。最近の例でいえば、ユニクロのヒートテックが好例でしょう。昔は「ババシャツ」と呼ばれる、生地の厚いおせじにもセンスが良いとは言えない肌着がありました。「生地が厚くてセンスが悪いな~」と思っていた人は多かったでしょうが、汗を熱に変えるという機能を持ったユニクロのヒートテックを明確にイメージして具体的に欲求していた顧客はいなかったでしょう。ユニクロが新しい市場を作り出したのです。
「顧客を創造する」の原文“Create a customer”という言葉
顧客の創造についてもう一言付け加えておきましょう。「顧客を創造する」の原文は”create a customer”です。これを見て私はなぜ”create customers”ではないのだろうかと思いました。一人の顧客を創造してもビジネスにはなりません。しかし、ドラッカーは一貫して”create customers”でなく”create a customer”を使っています。ドラッカーほどの人物ですから、一つひとつの単語は慎重に選んでいるはずです。私はここにもドラッカーの「人間を中心にして見る」という態度が表れているのではないかと思いました。市場をマーケットとして分析していたのでは新しい商品やサービスの開発は難しいでしょう。
拙著『財務3表一体理解法』(朝日新書)はベストセラーになりましたが、これは市場のニーズを分析して生まれたものではありません。私の顧問先の企業で、バランスシートも読めず銀行交渉ができない社長さんに「どうしたら財務会計を理解してもらえるだろうか」と考えていて生まれた会計勉強法が「財務3表一体理解法」でした。一人の悩みや苦しみを救うことが出来れば、その手法は万人に応用できます。
多くの貧村を救った二宮尊徳は「一村を救いうる方法は全国を救いうる。その原理は同じである」と言いました。ドラッカーが「顧客創造」(create a customer)と言った真意もここにあるのではないかと思います。
ドラッカーは、企業が市場を創造するには、まず「市場に居る一人ひとりの人間を見よ」と言っているのだと思います。ドラッカーは市場を市場(market)として見ていたのではなく、市場を形成する一人ひとりの人間(a customer)の集まりとして見ていたのでしょう。
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