世界遺産/中国の世界遺産

敦煌・莫高窟/中国(2ページ目)

莫高窟は文化遺産の登録基準1~6をすべて満たす3物件のひとつで、すべてが世界遺産である中国三大石窟の中で最大規模を誇る「キング・オブ・世界文化遺産」。1,000年にわたって築かれた492の石窟の内部は極彩色の壁画と仏像で彩られており、魏晋南北朝時代から元代まで、時代時代の美が凝縮されている。今回は中国の世界遺産「莫高窟」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

仏像の誕生と敦煌の歴史

鳴沙山、月牙泉のデューン

鳴沙山、月牙泉のデューン。ラクダで砂漠を渡っているのはキャラバン体験ツアーの人々。敦煌では街からでもこのようなデューンが眺められる。なんとも神秘的な光景だ ©牧哲雄

1世紀頃のアジア

1世紀頃のアジア。後漢の領土で左(西)に細く伸びているのが河西回廊だ。ゴビ砂漠の山地と祁連山脈に挟まれた道で、その要衝に敦煌がある

敦煌(とんこう)はゴビ砂漠の南西にある街で、西には死の世界=タクラマカン砂漠を中心とするタリム盆地が広がっている。なぜこんな辺境の地にこれほどの石窟寺院が建築されたのだろう?

紀元前111年、前漢の武帝は匈奴に勝利して大きく領土を広げ、手に入れた河西回廊に敦煌をはじめとする4つの郡を置く。ここから西に行くには、タクラマカン砂漠の上にある天山山脈に沿って抜けるか(天山北路、天山南路)、タクラマカン砂漠の下の崑崙(こんろん)山脈に沿って抜けていくのだが(西域南道)、いずれにしても敦煌が起点となった。

右は後漢の時代、1世紀前後のアジアの地図だが、班超の活躍で漢はタクラマカン砂漠を支配下に置き、クシャーナ朝と国境を接するようになった。このため、仏教の本場であるクシャーナ朝から仏教文化が直接伝えられるようになった。

 

玉門関

玉門関。『西遊記』に見られるように、ここより西は魑魅魍魎が暮らす異世界と考えられた。世界遺産「シルクロード:シルクロードの始点、天山回廊の道路網(カザフスタン/キルギス/中国共通、2014年、文化遺産(ii)(iii)(v)(vi))」構成資産 ©牧哲雄

クシャーナ朝と仏教に関する歴史も確認しておこう。

仏像が誕生する最初のきっかけが、紀元前4世紀、マケドニアのアレクサンドロス大王の東方遠征だ。このときギリシア人(マケドニア人)たちは中央アジアに進出して数多くの植民市を造った。その後、中央アジア(特にガンダーラ)をインドに興った仏教国・マウリア朝が支配して仏教を伝えると、ギリシア文化と仏教文化の融合が起こった。こうしてギリシア彫刻を真似て仏像が誕生した(インドのマトゥラーで生まれたとする説もある)。

マウリア朝が衰退した後、1~3世紀に中央アジアからインドにに至る巨大な版図を治めたのがクシャーナ朝だ。クシャーナ朝も仏教を保護したため仏教文化が大いに開花した。ガンダーラ美術はインドに伝わり、インドで成熟した仏像や仏教壁画、石窟寺院はクシャーナ朝と国境を接する漢へと伝えられた。もちろんその際には必ず敦煌を通ったわけだ。

 

仏教伝来と莫高窟の建造

莫高窟の牌坊

莫高窟の牌坊(はいぼう。出入口に設置する中国式の門)。背後にはたくさんの石窟の入口が見える ©牧哲雄

河倉城

河倉城。玉門関近くにあり、食糧庫や駐屯所だったと見られている ©牧哲雄

新しい文化・思想・宗教が広がるのは政治的に混乱した時代だ。漢は強大な国家だったし、儒教を保護していたので、仏教が伝わっても広がることはなかった。ところが4世紀、後漢末期に『三国志』の時代を迎えると、以後、魏晋南北朝時代と呼ばれる混乱の時代がはじまる。

この時代に力をつけたのが遊牧民族、特に鮮卑(せんぴ)だ。386年に鮮卑の拓跋珪(たくばつけい)が北魏を建てて皇帝位に就き、太武帝が中国北部を統一。次の文成帝が仏教を保護すると、インドの石窟を真似て盛んに石窟寺院が造られた。

中国三大石窟である雲崗、龍門、莫高窟はすべてこの時代に本格的な建造がはじまった。いずれも世界遺産だ。ちなみにインドの三大石窟はアジャンター、エレファンタ、エローラで、こちらもすべて世界遺産。

 

莫高窟の建造がはじまったのは北魏がはじまる少し前、366年に僧・楽尊(らくそん。尊は当て字)が切り拓いて以来といわれる。以来13世紀の元代まで、およそ1,000年にわたって石窟の建造が続けられた。
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