エローラ石窟群でインド美術にうっとりする

カイラーサナータ寺院。下に小さく見える人と比べると巨大さがわかる。この寺院、石を積み上げて造ったのではなく、岩を掘り抜いた「彫刻」。世界最大の彫刻ともいわれる ©牧哲雄

カイラーサナータ寺院。下に小さく見える人と比べると巨大さがわかる。この寺院、石を積み上げて造ったのではなく、岩を掘り抜いた「彫刻」。世界最大の彫刻といわれることも ©牧哲雄

インド三大石窟(せっくつ=石の洞窟)といえば、アジャンター石窟群、エレファンタ石窟群、エローラ石窟群(いずれも世界遺産)だが、このなかで、彫刻の規模と美しさにおいて最高峰にあるのがエローラで、特に第16窟のカイラーサナータ寺院(カイラーサ寺院)は世界最高の石造建築のひとつといわれている。

今回はカイラーサナータ寺院をはじめとする34の石窟からなるインドの世界遺産「エローラ石窟群」を紹介しよう。

神すらその美に打たれたカイラーサナータ寺院

丘から見下ろすカイラーサナータ寺院。寺院のあちこちに精緻な彫刻が彫られている。エローラのほとんどの寺院は石窟の中にあるが、この寺院はほとんど露出している ©牧哲雄

丘から見下ろすカイラーサナータ寺院。寺院のあちこちに精緻な彫刻が彫られている。エローラの多くの寺院は石窟の中にあるが、この寺院はほとんど露出している ©牧哲雄

カイラーサナータ寺院の上部に掘られた4頭の獅子像 ©牧哲雄

カイラーサナータ寺院の上部に掘られた4頭の獅子像 ©牧哲雄

創造神ヴィシュヴァカルマは、ラーシュトラクータ朝の君主クリシュナ1世の祈りを聞き入れ、王のためにシヴァ神に捧げる寺院を建立した。完成させた寺院のあまりの美しさに、ヴィシュヴァカルマは自分自身でさえも驚いて、身震いしたという。この伝説の寺院がエローラ第16窟、カイラーサナータ寺院だ。

高さ32m、底面85m×50mのカイラーサナータ寺院は重い。玄武岩の黒のためか、下から山のように突き上げる構造のためか、その美はタージ・マハルの華麗な白と対極をなし、ひたすら重厚・荘厳だ。

 

山中をくり抜いて造られたエローラ石窟群 ©牧哲雄

山中をくり抜いて造られたエローラ石窟群 ©牧哲雄

カイラーサナータ寺院は、ヒマラヤの聖山カイラス(カイラーサ山)に住む世界の王(ナータ)=シヴァ神を祀るために建立された。ヒンドゥー教の寺院らしく、寺院の壁も天井も神々の彫刻や、ヒンドゥー教の神話『ラーマーヤナ』『マハーバーラタ』の場面を描いたレリーフで覆われている。たとえばシヴァ神とその妻パールヴァティーの結婚式や、パールバティーが戦いの神ドゥルガーと化して武器を投げつける様子、美の女神ラクシュミーや愛の神カーマの物語などが描かれている。

驚くのは、この寺院が石を積み上げて造られたものではなく、山を彫った「彫刻」であること。100年をかけてノミとカナヅチだけで山を彫り、掘り出された石はなんと20万トン。3階以上の多層構造で空中回廊まである巨大な彫刻ながら、壁は恐ろしいほど繊細なレリーフで埋め尽くされている。規模と繊細さが同居した、数少ない遺跡のひとつだ。