世界遺産/インドの世界遺産

エローラ石窟群/インド(2ページ目)

聖山カイラスに住むシヴァ神を祀るため、100年の期間とインド工芸の粋を集めて造られたカイラーサナータ寺院。今回はこの世界でもっとも美しい石窟寺院で有名なインドの世界遺産「エローラ石窟群」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

世界遺産「エローラ石窟群」の全貌

下からカイラーサナータ寺院を見上げる。象の彫刻と高さ17mの記念柱スタンバ ©牧哲雄

下からカイラーサナータ寺院を見上げる。手前は象の彫刻と高さ17mの記念柱スタンバ。寺院の下部には無数の象が彫られており、象が寺院を背負うようなデザインになっている ©牧哲雄

エローラ石窟群、ユネスコの登録名称は「Ellora Caves」。「cave」は洞窟を意味するのだが、岩を洞窟状にくり抜いた石窟が34もあることから「石窟群」と呼ばれている。

日本で見るものに近い仏教窟の仏像 ©牧哲雄

日本で見るものに近い仏教窟の仏像 ©牧哲雄

石窟は天然のものではなく、職人が硬い岩盤を一つひとつ掘り進めたもの。掘りながら、同時に寺院の柱や梁、仏像、レリーフなどを刻み込んでいった。こうして彫られた34の石窟は岩山の中腹2.5kmほどに点在し、第1~12窟が仏教の窟院、第13~29窟がヒンドゥー教の窟院、そして第30~34窟がジャイナ教の窟院となっている。

インドの仏教は6世紀頃には衰退に向かい、4世紀頃バラモン教が変化して生まれたヒンドゥー教が勢力を伸ばすと少しずつ混ざり合い、やがてヒンドゥー教は仏教を吸収する形でインド中に広まった。ジャイナ教は、仏教とほぼ同じ紀元前6世紀前後にマハーヴィーラ(ヴァルダマーナ)によって成立した宗教だが、これも仏教やヒンドゥー教の影響を受けながら伝えられた。

たとえば仏教窟とヒンドゥー教窟は同じ時代に並行して造られたものもあるようだが、双方が双方を吸収し合っていたためか、お互い平和に共存していたようだ。現在多くの遺跡が破壊されているように見えるが、これは13世紀以降インドに広まったイスラム教徒が偶像崇拝を嫌って破壊したものだといわれている。以下では宗教窟ごとに解説しよう。

 

エローラ第1~12窟:仏教窟

7体の仏像が並ぶ第12窟、ティーン・タル窟 ©牧哲雄

7体の仏像が並ぶ第12窟、ティーン・タル窟。にぎやかなヒンドゥー教窟に比べると、仏教窟は荘厳だ ©牧哲雄

神秘的な第10窟のヴィシュヴァカルマ窟 ©牧哲雄

神秘的な第10窟のヴィシュヴァカルマ窟 ©牧哲雄

仏教窟は5~8世紀に造られたもので、第10窟以外は僧院=ヴィハーラ窟となっている。仏像を祀ってある仏塔つきの寺院が第10窟で、寺院として機能するこのような石窟をチャイティヤ窟という。

ほとんどがヴィハーラ窟であることから、エローラはもともと僧たちの修行の場だったことがわかる。中は居住空間として、瞑想室や台所、トイレ、寝室などの設備を整え、2~3階建てのものが多い。

一方、エローラの石窟でもっとも神秘的な空間が、チャイティヤ窟である第10窟=ヴィシュヴァカルマ窟(別名、大工の石窟)だ。生物の肋骨を思わせる天井が、自分が何か巨大な怪物の胃袋に飲み込まれたような異様な錯覚を起こさせて、ストゥーパを背にして座るブッダとその従者たちがとてつもなく神々しく見える。第10窟以外にも仏像は見られるが、セクシーな女神像なども多く、ヒンドゥー教の影響が見てとれる。
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