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今は昔! 来日ジャズメンのここだけの話ベスト3(2ページ目)

1980年代後半に、恵比寿にあった伝説のライブハウスに訪れた、キラ星のような来日ジャズミュージシャンの、とっておきの話ベスト3をご紹介いたします。おススメCD紹介つきです。

大須賀 進

執筆者:大須賀 進

ジャズガイド


来日ジャズメンのここだけの話ベスト3 第二位
名わき役的いぶし銀ドラム奏者 「ジョー・ハリス」

「ジョー・ハリス」と聞いて、すぐにピンとくる人は、相当なジャズ通と言えます。プロとしてのデビュー当時から、ディジー・ガレスピーチャーリー・パーカーといった第一人者と共演した名ドラム奏者ですが、1950年代後半よりスウェーデンに移り住んだためにジャズ界では知る人ぞ知る存在になった名手です。

今回は、この通好みのいぶし銀的ドラム奏者「ジョー・ハリス」が、ピガピガ(1980年代から約20年間恵比寿にあった伝説的ジャズライブハウス)にやってきたお話です。

当時のピガピガは本格的なジャズ演奏はもちろん、料理も自慢の店でした。オーナーのドラム奏者石川晶氏のアフリカ好きがここにも反映し、出す料理は当時としても珍しいアフリカ料理です。そのおいしい料理を作る厨房のそのまた奥の小部屋が今回のもう一人(一つ)の主役です。

打ちっぱなしのコンクリで、地下にあったピガピガの裏階段下のその小部屋は、普段は飲み物の予備の冷蔵庫があったり、米や野菜が積んであったりして、華々しいステージからは距離も雰囲気も一番遠い所にある場所です。でも、ここは実はピガピガの従業員の憩いの場所でもありました。

まかないと呼ばれる食事を食べるのもここ、タバコを吸うのもここ、座って休憩をとるのもこの小部屋です。ピガピガはライブハウスですので、一歩店に入れば周りは音楽で溢れています。バンドの演奏はもちろん、普段もレコードを大音量で鳴らしており、いくら音楽好きのバンドマンや従業員でも、休憩の時くらいは静かな場所が良いと思うのも不思議ではありません。そういった意味では、この小部屋が最適でした。

バンドがフルに鳴らしても、遠くのレコードくらいにしか聞こえないこの部屋は、そのせいか、とても音が偏って聞こえます。ピアノやベースやもちろんサックスなどはほとんど聞こえず、かろうじて聞こえてくるのはドラムの音です。それも、普段はかすかに聞こえるだけです。

本来ドラムという楽器は、自分の求めるサウンドに近づくように調整をして、初めて気持ちよく鳴ってくれる楽器です。ピガピガのドラムは、もちろんオーナーでドラム奏者の石川のおやっさん(我々は親しみをこめてそう呼んでいました)のものなので、来店するドラム奏者はみなそれに合わせて叩いています。やりにくいと思う人もきっといたはずです。当たり前ですがこのドラムセットは石川さんがドラムに座った時に一番良い音で鳴りました。

特に、石川さんのスネアドラム(左手で叩く、一番左足に近い部分の要になるドラム)の音は、厨房奥の小部屋でも一音一音はっきり聞こえてきました。来日した有名ドラム奏者や日本のトッププロを持ってしても、それまでそのスネアドラムを叩いた誰一人として、小部屋にまで聞こえてきた人はいませんでした。

それはミュージシャンだけでなく、厨房の主のチーフがタバコを吸っていても「お、おやっさん来たな」と分かるくらい明らかに、石川さんの時だけ聞こえてくるのです。「そんだけ、おやっさんのこっちがすごいってことだよ」チーフは左腕を軽く叩きながらいつも言っていました。

その日も、たまたまチーフと小部屋でタバコを吸っていると、「タンッ!タンッ!」突然スネアドラムの音が鳴り響きました。「お、おやっさん、今日は張り切ってるな」あわてて戻ってステージを見ると、なんとそこには雰囲気こそ似ていますが明らかに別人がドラムに座っていました。その人こそが、今回ご紹介する「ジョー・ハリス」その人だったのです。

後に石川さんは言いました。「俺もジョーも、若い頃ビッグバンドで鍛えられたからな。昔はとにかく、音響が良くないから、あんだけ人数がいると、ドラム聞こえないって、バンマスやメンバーからしょっちゅう怒られんだよ。だから必死になって叩いて、叩いて、皆が聞こえるようにって。それしかないんだよ」

ジョー・ハリスは、1940年代後半デビューして間もない頃に当時最高にヒップなビバップ(モダンジャズのジャンル)の超有名トランペット奏者「ディジー・ガレスピー」ビッグバンド(大編成のジャズオーケストラ)のドラムを務めていました。とにかく音の大きい、目まぐるしいテーマを急速調に奏でるバンドです。そこでは超有名サックス奏者「チャーリー・パーカー」とも演奏しています。

そんな大御所に囲まれ、おそらくは相当に怒られながらも必死についていこう、音を届かせようと頑張る若き日々は、後年彼に、遠く離れた島国日本のライブハウスの小部屋を響かせる腕を与えました。

その日から、ピガピガの憩いの小部屋は、「ジョーの部屋」と名づけられました。

あなたに、お勧めする「ジョー・ハリス」のCDはこの一枚です!
ミーティング・イン・スタジオI

ミーティング・イン・スタジオI

「ミーティング・イン・スタジオ1」より1曲目「トゥー・ソングス」

1960年にユーゴスラビアで録音されたという珍しいジャズCD。これからジャズ・JAZZを聴いてみたい人へベスト3でもご紹介しました超有名アレンジャー、クインシー・ジョーンズの率いる楽団の一員として、ヨーロッパ巡業の時のものです。

一曲目「トゥー・ソングス」では、後半5分30秒から彼のスネアドラムによるドラムソロを聴く事が出来ます。録音の関係か、「ジョーの部屋」で聞いたスネアの音とまでは行きませんが、雰囲気は伝わって来る熱演です。

来日ジャズメンのここだけの話ベスト3、栄えある第一位は次のページで紹介します。

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