ジャズ/シチュエーション別おすすめジャズ

桜の季節にピッタリのジャズ5選

今回は、桜鑑賞の季節にピッタリのジャズCDをご紹介いたします。春と言えば何と言っても桜の季節です。この季節に日本中を縦断するように咲きみだれる、もっとも愛される日本を代表する花。桜を愛でる習慣は、古来より現在に至るまで続いています。

大須賀 進

執筆者:大須賀 進

ジャズガイド

桜の季節に聴きたいジャズ5選!

桜の季節に聴きたいジャズ

桜の季節に聴きたいジャズ

三寒四温の言葉の通り、少しずつ暖かい日が増えてきたと思ったら、いつの間にかもう四月。本格的な春の訪れです。辺りは花の息吹でいっぱいになります。

四月を代表する花と言えばやはりサクラです。この季節に日本中を縦断するように咲きみだれる、もっとも愛される日本を代表する花。サクラを愛でる習慣は、古来より現在に至るまで続いています。そんなサクラ鑑賞の季節にピッタリのジャズCDをご紹介いたします。
 
<目次>
 

あなたに、最初にお勧めするのはこの一枚です!

Charlie Parker With Strings: The Master Takes

Charlie Parker With Strings: The Master Takes

超有名アルトサックス奏者チャーリー・パーカーのCD「ウィズ・ストリングス」

<「ウィズ・ストリングス」より オススメベスト二選>

昔ならば、月明かりでの雅な鑑賞だった夜桜見物も、現代ではライトアップされ、デートシーンでも定番的に使われるようになりました。そんな二人の夜桜デートのイメージにぴったりなのが、チャーリー・パーカーのサックスにロマンチックなストリングスが絡む、この「ウィズ・ストリングス」です。
 

「ジャスト・フレンズ」

まずは一曲目「ジャスト・フレンズ」から聴いてみましょう。出だしからパーカーのアドリブ(即興演奏)が、まるで思いのたけを抑えきれないかのように飛び出してくるので、ちょっと驚いてしまいます。

アドリブとはジャズではもっとも重要視されている即興演奏部分のことを言います。情熱があって刹那的なパーカーのアドリブは、サクラに例えるなら、夜風にたなびくピンクの「八重桜」。自分の中から次々に湧き出るオリジナルなメロディの花びらが、サックスから辺り一面に噴き出すかのような、幻想的なイメージすら抱いてしまいます。

ジャストフレンズは、恋人だった相手との関係がただの友達になってしまったという内容の別れの歌です。「ある日突然ただの友達なんて、そんなのないわ」と歌われる有名なスタンダードです。

ここでのパーカーは、本来のテーマメロディと自分のオリジナルメロディ(アドリブ)が一体となって、この曲を切々と歌い上げます。チャーリー・パーカーは本来アドリブの超絶技巧ぶりで有名になった人。ですが、実は駆け出しの頃にニューヨークのダンスホールで、一分刻みに曲のテーマだけを、次々と吹き続ける仕事をしていた事がありました。そんなパーカーの心には、アドリブ以上に数々の歌のテーマが滲みこんでいます。

曲のテーマを大事に吹奏するには、ムーディーなストリングスの伴奏がピッタリです。パーカーがストリングスとの共演を好んだというのは、このCDを聴いている私たちにとっても幸せな事だったと言えます。
 

「四月の思い出」

十四曲目の「四月の思い出」を聴いてみましょう。センチメンタルなテーマが特徴のこのスタンダードを、パーカーはメロディをあまり崩す事無く歌って行きます。

この「四月の思い出」のテーマはパーカーもお気に入りだった様です。別の年に吹きこまれた、まったく違う曲のアドリブでこのテーマが出てきます。実はこれは、パーカーの間違いではなく、ジャズのアドリブでは結構頻繁に使われるテクニックの一つです。

このように、違う曲でのアドリブで他の曲のテーマを引用する事を、「クォーテーション」(引用)と言います。皆さんが、これから色々なジャズのアドリブを聴いていって、明らかに違う曲なのに「あれ、この部分なんか聴いた事がある」と思う瞬間が出てきたならば、それはこの「クォーテーション」という事です。スタンダードのテーマをたくさん憶えて行くと、そういう楽しみ方も増えます。

チャーリー・パーカーは、今回の最後でご紹介するトランペット奏者ディジー・ガレスピーと二人で「モダン・ジャズ」の元になった「ビ・バップ」というジャンルを作った人。ジャズ界ではパーカー以後のあらゆるサックス奏者はもちろん、「モダン・ジャズ」の世界自体でも、影響を受けていない人はいないと言われるほどのレジェンドです。

それだけに色々とたくさん神話的逸話は残っていますが、中でもジャズの世界だけでなく、ミュージックシーンでは知らない人はいないと言われる「マイルス・デイヴィス」という超有名トランペット奏者の次の言葉があります。

「つまるところ、ジャズってのは次の4つのワードで表わされる。その4つのワードってのは、ルイ・アームストロング・チャーリー・パーカーさ」

ここで出てきた「ルイ・アームストロング」もジャズ界のみならずポップスの世界でも超有名な人です。偉大なトランペット&ボーカルで、歌の心やメロディを大切にした人です。

つまるところマイルス・デイヴィスが言いたかったのは、「ジャズってのは偉大な歌心なんだぜ」って事かもしれません。

 

二枚目には、このCDがおススメ!

フォンテッサ

フォンテッサ

 有名ジャズグループ、MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の「フォンテッサ」

<フォンテッサより一選>

鳥のさえずりで目覚めた朝です。開け放した窓には白く輝く木漏れ日に揺らめく「しだれ桜」が優しく拡がっています。こんな清々しい春の朝にピッタリなのがこのCDです。

MJQはモダン・ジャズ・カルテットの略で、カルテットの名の通り四人組のグループです。ロックなど他の音楽とは違い、ジャズではビッグバンド(ジャズオーケストラ)を除いて、グループというのはあまり多くありません。

もちろん普通は、トリオ(三人)やカルテット(四人)、クインテット(五人)などで演奏するのが一般的ですが、グループというよりも、その場限りのメンバーが多いのが特徴です。

それは、ジャズという音楽が、基本譜面どおりに演奏するのではなく、アドリブ(即興演奏)によって成り立っているという事も大きな理由の一つと言えます。スタンダードなど、曲さえ知っていれば、その場で集まっても演奏が出来るのがジャズの強み。そのために、あまりリハーサルを必要とせず、その時の都合でメンバーを決めるというのが普通になっています。

それが良いところでもあり、弱点でもあるのがジャズの面白いところです。代わりがきくためにグループである必要性が薄く、個人で色々なバンドを掛け持ちしている場合が多くあります。リハーサルもあまりしないために、クオリティが今一つ……というような場合も少なからずありえます。

そんな中で、このMJQは四十年間もほぼ同じメンバーでグループとして活躍した異色のグループです。彼らの強みは、まさにそのグループの強固な一体感。長年一緒にプレイする事で、お互いの考えがすべてわかる盤石のチームワークが自慢です。

その上、MJQはメンバー構成も秀逸です。特にクラシカルなピアノのジョン・ルイスと涼しげなヴィブラフォン(ヴァイヴ、金属製の木琴に似た楽器)のミルト・ジャクソンの二人は、MJQを語るうえでは欠かせません。

このピアノとヴィブラフォンの響きが、うららかな春の一日の始まりにまさにピッタリと言えます。さわやかとしか表現しようがないヴィブラフォンの音色は、まるではらはらと風に舞うサクラの花びらを思わせます。
 

「柳は泣いている」

このCDではまず六曲目「柳は泣いている」を聴いてみましょう。この曲は「柳は泣いている」という題名だけあって、歌詞も曲調も少しばかり感傷的に過ぎ、普段ならば少し敬遠したい雰囲気です。でも、このMJQの演奏は違います。

ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンは、ガラスの鈴の音のような愛らしさで、テーマを綴って行きます。ミルト・ジャクソンのというよりも、MJQの魅力の秘密がここにあります。

ミルト・ジャクソンの演奏は、もし楽器がヴィブラフォン以外のものだったとしたら、むしろとてもアクの強いフレーズ(アドリブの旋律)です。彼はどの曲でも、彼の持つブルースシンガーのような、跳ねたり、粘ったり、溜めたりといったアクの強いフレーズを、どこまでも軽やかな音色のヴィブラフォンで奏でます。

例えるならば、グラマーで大人を感じさせる女性の声が、少女のような声といった感じでしょうか。そのギャップこそが最大のチャームポイント。そして、強烈にジャズを感じさせる部分と言えます。

「柳は泣いている」というトーチソング(失恋の歌)が、涙に濡れそぼる柳というよりも、さらさらと風になびく「しだれ桜」のように聴こえます。このMJQの長いキャリアの中でも、傑作の一つと言われるCDを聴きながら、朝からのサクラ見物もオツなものかもしれません。

この演奏が気にいったのなら、ぜひとも違うジャズマンのこの曲の演奏を聴いてみてください。印象の違いに、あっと思うかもしれません。それもまた、ジャズの楽しみの一つ。どんどん、好きな曲の好きな演奏を増やして行ってください。


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三枚目にオススメするCDはこれ!

ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング

ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング

 有名ピアノ奏者ビル・エヴァンスのCD「ユー・マスト・ビリーブ・イン・スプリング」

<「ユー・マスト・ビリーブ・イン・スプリング」より二選>
 

「Bマイナー・ワルツ(フォー・エレイン)」

このCDはぜひ最初の一曲目から聴いていってください。この「Bマイナー・ワルツ」はフォー・エレインという副題がついています。エレインとはこのCDを吹きこんだ前年の1976年に亡くなった、ビル・エヴァンスの前妻のことです。

出だしからこの演奏はピアノの凛とした響きの中にも、ビル・エヴァンス自身が大切な思い出に浸っている様な、そんな一種の寂しさを感じさせる雰囲気が漂っています。

この演奏をサクラに例えるなら、夕日に映える白く清廉な「ソメイヨシノ」でしょうか。鮮やかに咲くだけではなく、散りゆく姿にも、ものの哀れを感じさせます。

このCDほど黄昏時を感じさせるビル・エヴァンスの演奏はあまりありません。これから来る夜の闇。その前の一時、茜色に輝く短い時間にこそふさわしい演奏に感じます。

それは、このCD自体がそういったビルの大切な亡くなった人へ捧げられたアルバムだからです。四曲目ウイ・ウィル・ミート・アゲイン(フォー・ハリー)もこの同年(77年)に自殺で亡くなったビルの兄に捧げられた曲です。この曲も「Bマイナー・ワルツ」同様、レクイエム(鎮魂歌)と言っても良い深い響きを持っています。

どちらの演奏も、相次ぐ不幸に、身もだえする様な辛い時期を過ごし、ここに至って演奏によって自身の思いを浄化しようとしているかのような静かで厳かな演奏に聴こえます。
 

「ザ・ピーコックス」

次にご紹介したいのは五曲目「ザ・ピーコックス」です。翼を広げるクジャクの美しさを表現したこの演奏は、まさにビル・エヴァンス渾身の作品になっています。

己の身を削るように、必死に美しくあろうと翼を広げるクジャクと、このビル・エヴァンスの「ザ・ピーコックス」の演奏。それと、短い時間の中で、きれいに咲いてもパッと散ってしまうサクラ「ソメイヨシノ」。この三者に共通するものは、美しいものはどこか悲しみと一緒にあるという事です。

たまには、暮れゆく夕日をバックにサクラを見ながらこの演奏を聴き、もろくもはかない人生に思いを寄せるのも良いかもしれません。そんな事を思わせる演奏です。

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番外編 ~とは言え、花見と言えば、やっぱり宴会~

感傷的な黄昏時が過ぎ、辺りは少しずつ暗くなってきました。こうなると、アフター5の大人たちがわらわら集い、ライトアップされたサクラを愛でながらの大宴会の始まりです。

そんな宴会ムードに相応しいと言えるCDが次の有名トランペット奏者ディジー・ガレスピーの「ソニー・サイド・アップ」です。
ソニー・サイド・アップ

ソニー・サイド・アップ

 <「ソニー・サイド・アップ」から一選>
 

「明るい表通りで」

このCDでは、何と言っても一曲目「明るい表通りで」を聴いてみましょう。

1957年に録音されたこの演奏は、絶頂期の超有名テナーサックス奏者のソニー・ロリンズともう一人ソニー・スティットという東西両横綱級の二人が参加しています。そんな、テナーサックス同士の丁々発止とやりあう真剣勝負をよそに、ディジー・ガレスピーが、さすがの貫録で肩ひじ張る事無く、リラックスした演奏に終始したものです。

トランペット奏者のディジー・ガレスピーというと、先ほどご紹介したモダンジャズの開祖の二人組のうちの一人です。(もう一人はアルトサックスのチャーリー・パーカー)

言ってみればモダンジャズのカリスマと言っても良い存在です。でもその割には、この「明るい表通りで」でのガレスピーは、自らとぼけた味わいのボーカルまで披露し、宴会に華を添えます。

花見の席には必ず一人はいるお調子者を思わせる能天気さが微笑ましく楽しい演奏と言ってもよいでしょう。

その親しみやすいボーカルとはうって変わり、ガレスピーのトランペットはラジカルです。その辺のギャップも彼の魅力と言って良く、おどけた一面は見せてもジャズ界のイノベーターとしての矜持を見せてくれます。

このCDは、このほかの三曲とも甲乙つけがたい熱演が繰り広げられます。ガレスピーはもちろんですが、二人のテナーサックス奏者のがっぷり四つに組んだ取り組み(テナー吹き比べ)もお楽しみください。

大好きなサクラの木の下での宴会、めいっぱい楽しんでください。でも、呑み過ぎにはご注意を。

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