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サクラの季節にピッタリのジャズ5選(2ページ目)

春と言えば何と言ってもサクラの季節です。この時期に日本中を縦断するように咲きみだれる、もっとも愛される日本の代表的な花、サクラ。そんなサクラ鑑賞の季節にピッタリのジャズCDをご紹介いたします。

大須賀 進

執筆者:大須賀 進

ジャズガイド

二枚目には、このCDがおススメ!


フォンテッサ

フォンテッサ

 有名ジャズグループ、MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の「フォンテッサ」

<フォンテッサより一選>

鳥のさえずりで目覚めた朝です。開け放した窓には白く輝く木漏れ日に揺らめく「しだれ桜」が優しく拡がっています。こんな清々しい春の朝にピッタリなのがこのCDです。

MJQはモダン・ジャズ・カルテットの略で、カルテットの名の通り四人組のグループです。ロックなど他の音楽とは違い、ジャズではビッグバンド(ジャズオーケストラ)を除いて、グループというのはあまり多くありません。

もちろん普通は、トリオ(三人)やカルテット(四人)、クインテット(五人)などで演奏するのが一般的ですが、グループというよりも、その場限りのメンバーが多いのが特徴です。

それは、ジャズという音楽が、基本譜面どおりに演奏するのではなく、アドリブ(即興演奏)によって成り立っているという事も大きな理由の一つと言えます。スタンダードなど、曲さえ知っていれば、その場で集まっても演奏が出来るのがジャズの強み。そのために、あまりリハーサルを必要とせず、その時の都合でメンバーを決めるというのが普通になっています。

それが良いところでもあり、弱点でもあるのがジャズの面白いところです。代わりがきくためにグループである必要性が薄く、個人で色々なバンドを掛け持ちしている場合が多くあります。リハーサルもあまりしないために、クオリティが今一つ……というような場合も少なからずありえます。

そんな中で、このMJQは四十年間もほぼ同じメンバーでグループとして活躍した異色のグループです。彼らの強みは、まさにそのグループの強固な一体感。長年一緒にプレイする事で、お互いの考えがすべてわかる盤石のチームワークが自慢です。

その上、MJQはメンバー構成も秀逸です。特にクラシカルなピアノのジョン・ルイスと涼しげなヴィブラフォン(ヴァイヴ、金属製の木琴に似た楽器)のミルト・ジャクソンの二人は、MJQを語るうえでは欠かせません。

このピアノとヴィブラフォンの響きが、うららかな春の一日の始まりにまさにピッタリと言えます。さわやかとしか表現しようがないヴィブラフォンの音色は、まるではらはらと風に舞うサクラの花びらを思わせます。

「柳は泣いている」

このCDではまず六曲目「柳は泣いている」を聴いてみましょう。この曲は「柳は泣いている」という題名だけあって、歌詞も曲調も少しばかり感傷的に過ぎ、普段ならば少し敬遠したい雰囲気です。でも、このMJQの演奏は違います。

ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンは、ガラスの鈴の音のような愛らしさで、テーマを綴って行きます。ミルト・ジャクソンのというよりも、MJQの魅力の秘密がここにあります。

ミルト・ジャクソンの演奏は、もし楽器がヴィブラフォン以外のものだったとしたら、むしろとてもアクの強いフレーズ(アドリブの旋律)です。彼はどの曲でも、彼の持つブルースシンガーのような、跳ねたり、粘ったり、溜めたりといったアクの強いフレーズを、どこまでも軽やかな音色のヴィブラフォンで奏でます。

例えるならば、グラマーで大人を感じさせる女性の声が、少女のような声といった感じでしょうか。そのギャップこそが最大のチャームポイント。そして、強烈にジャズを感じさせる部分と言えます。

「柳は泣いている」というトーチソング(失恋の歌)が、涙に濡れそぼる柳というよりも、さらさらと風になびく「しだれ桜」のように聴こえます。このMJQの長いキャリアの中でも、傑作の一つと言われるCDを聴きながら、朝からのサクラ見物もオツなものかもしれません。

この演奏が気にいったのなら、ぜひとも違うジャズマンのこの曲の演奏を聴いてみてください。印象の違いに、あっと思うかもしれません。それもまた、ジャズの楽しみの一つ。どんどん、好きな曲の好きな演奏を増やして行ってください。

次のページでは、三枚目に聴いてほしいCDをご紹介しましょう。

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