世界遺産/アジアの世界遺産

古都アレッポ/シリア(2ページ目)

5,000年以上の歴史を誇る古都アレッポの中心にそびえるアレッポ城は、十字軍やモンゴル軍の攻撃に耐え抜いた難攻不落の城。周囲に広がる市場=スークには世界中の産品が集まり、古代オリエントの隊商貿易の中心として繁栄した。ところが2012年、内戦の影響でスークの多くが焼失してしまう。今回はシリアの世界遺産「古都アレッポ」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

破壊されるシリアの世界遺産

グレート・モスク

715年にキリスト教会からモスクに改修されたグレート・モスク。ダマスカスのウマイヤド・モスクは705年建築で「世界最古のモスク」といわれるが、それに匹敵する歴史を誇る ©牧哲雄

グレート・モスクのミナレット

11世紀に造られたグレート・モスクのミナレット。毎日5回、ここから礼拝の呼び掛け=アザーンが流される ©牧哲雄

アレッポにいつスークが誕生したのか定かではない。でも紀元前3000~紀元前2000年頃にはアムル人がここに都市国家を興し、隊商貿易で栄えていたようなので、約5,000年の歴史があることになる。

2012年9月、アサド大統領率いるシリア政府軍と反体制派との戦いでこのスークが爆撃され、700~1,000軒の店舗が焼失。10月にはグレート・モスク(ジャミ・ザカリーエ)が攻撃を受けて損傷した。

2012年末には世界遺産「クラック・デ・シュバリエとカラット・サラディン」や「古都ダマスカス」「シリア北部の古代村落群」でも戦闘が行われ、損傷を受けたようだ。UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)は懸念を表明し、それがシリアの民族の魂とアイデンティティを破壊するだけでなく、人類の価値や個性、在り方をも損なう行為であると非難した。

2010年12月18日のチュニジア・ジャスミン革命以来続いている中東独裁政権の連鎖的崩壊「アラブの春」。実はこの混乱で、中東の多くの世界遺産が破壊の危機にある。

 

時計塔

オスマン帝国の時代に造られた時計塔 ©牧哲雄

理由は、歴史的な建造物は攻撃を受けにくいことから逃げ込みやすいこと。そして民主化運動が宗教対立や民族対立に発展すると、敵の心を打ち砕くために、他の思想・宗派・民族の象徴的・歴史的建造物が攻撃対象となりやすいからだ。

UNESCOやICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は世界遺産条約やハーグ条約(武力紛争の際の文化財の保護に関する条約)等、国際法の立場から圧力を加えているが、効果は表れていない。

UNESCOは安全が確保されることを条件に、修復の全面的な協力を表明している。実際クロアチアの世界遺産「ドブロブニク旧市街/クロアチア」などでは、東欧革命・クロアチア独立の際に破壊された街並みが、UNESCOをはじめとする世界の支援を受けてまったく同じ素材・建築法で修復された。

 

今後もシリアとUNESCOの動きを注視したい。

■UNESCO憲章前文
"Since wars begin in the minds of men, it is in the minds of men that the defenses of peace must be constructed."
戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。
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