億ションなのに、この床材?
昭和のバブル崩壊から、長らく続いた不動産価格*の下落は2002年に底を打つ(*23区新築マンション)。以降、平均単価は緩やかながら上昇傾向にある。10年前と今との大きな違いは何か。ひとつには、インフィル(内装・設備など)のチープ化ではないだろうか。
チープ化という表現は語弊があるかも知れない。正しくは、コストバランスの変化。スケルトン(躯体)の高質化、断熱性の向上、保証(住宅性能表示)制度の活用、ディスポーザーなどを代表とするキッチン設備の充実に予算がまわってしまったということ。建築費の変動も要因のひとつ。
今から思えば、10年前の内装は細部にわたりこだわり尽くしていた。床や建具には突き板や無垢材を用い、水回り機器や金具はすべてドイツのブランドメーカーを使う。地価の下落過程においては、インテリアの上質さをもって価値を引き上げるしかなかったのだろう。実際、こんな現象が起きている。築10年程度で買い替える人が最近のモデルルームを見て、「億ションでシートフローリング?」と驚きを隠せないという。無論、当時の品より質感、デザイン、バリエーションすべてにおいて改良されてはいるのだが。
売れ行きを左右する、空間づくりのセンス
インフィルからスケルトンへ。さらにはエントランスをはじめとする共用部など「替えられないところ」に比重が移ったわけだが、その背景には顧客サイドが資産性を重視しはじめたという事情も絡む。次に買う人はリフォームするのだから、極端な言い方をすれば、「替えることができる内装の関心は低い」というわけだ。しかし、高級マンションになるほど、その見方は実態に即していないといいたい。思い描いた住空間はもちろん有るのだけれど、理想を超える、新しいセンスで質の高い提案を常に彼らは待ち望んでいる。
それは、「億ション分譲はオーダーメイドが基本」といいながら、著名デザイナーを登用してまでコストを投下し、モデルルームをしつらえることからも明らか。家具選びも慎重だ。「どのサイズのテーブルをどの向きに置くか」、売主がそれほどコーディネートにこだわるのは、生活シーンがイメージできるかどうかで売れ行きが左右されるからに他ならない。インテリアと購買動機の関係は高額ほど相関が強まるのである。