高度な構造設計施工技術
「コアウォール+境界梁型制震ダンパー」
建物の中心部に上下を貫く分厚い柱を配するコアウォール工法は、住戸部分を圧迫する柱や梁の存在を小さくすることができ、細長い形状をしたタワー型マンションにおける地震対策にも有効な工法のひとつである。そのコアウォールと揺れを低減する制震構造の組み合わせが「アトラスブランズタワー三河島」に採用された「コアウォール+境界梁型制震ダンパー」。同様の発想は「赤坂タワーレジデンス トップオブザヒル」(2008年築・港区赤坂2丁目、サンウッド分譲、竹中工務店施工)などでも取り入れられているが、今回「アトラスブランズタワー三河島」で採用した手法は清水建設としては初。先端技術を駆使したプロジェクトであることがわかる。
階高は3.2m(最大)。順梁アウトフレームであるため、角住戸を除き、室内に大きな下り天井(梁)は発生していない。しかし、柱梁を外に追い出している割に窓のサイズに眺望を大きく取り込もうとした形跡がない。このあたりが、価格相当の物件かなと捉えられがちなのだろう。が、ここがひとつのポイント。サッシュに注目したい。
二重サッシュにみる「保守性」
二重サッシュは、環境の難(音の大きさ)を象徴する設備ともいえる。ひと昔前にくらべれば、サッシュ自体の遮音性能が向上していることもあり、使わずに済むならそれに越したことはない、というのが一般的な売り手側の気持ちではないだろうか。だから、今回のように線路を北に接した現地であるにもかかわらず、(南側の中住戸を除く)ほとんどの窓が二重サッシュなのは意外にも思えた。実際は、常磐線の外側を走る貨物列車の騒音対策だという。夜間も走行することから、遮音性能最高ランクの二重サッシュを採用するに至った。ここからは想像の域を出ないが、窓のサイズに対する疑問は二重サッシュで大方解決がついた。要するに、開口部の大きさと居住性が相反する現場なのだ。コストがかさんで値段に跳ね返るといった側面もあっただろうし、もっといえば天井近くまである窓を二回拭くことになる日常の手間を考えれば、妥当な選択といえる。保守的なイメージを植え付けられたプロジェクトは、先進性の面で見劣りするか、誠実さが強調されるか、のどちらかに振れるきらいがあるが、このタワーは後者。先進の構造技術と暮らしやすい設備を組み合わせ、コストバランスのとれた建物に仕上がっている。
先週開かれた記者内覧会では、「なぜ物件名に“三河島”と付けたのか?」との質問が出た。認知度が低く、あるいは知っている人にとっては大惨事を引き起こした「三河島事故」のイメージが浮かんでしまうのではないかとの理由から。しかし、マンション開発は、そこに暮らす人々が作り上げてきた地域環境を礎にして成り立つ事業である。エリアナンバーワンの気概をもって取り組んだマンションであればあるほど、その名称を掲げるのが地元に対する誠意というもので、その点においてもこのプロジェクトはまっとうしている。
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