台数不足の解消策として、機械式駐車場が積極導入されるようになった。
そこで、狭小敷地のマンションでも一定の台数を確保できるよう、導入されたのが機械式駐車場です。国土交通省の「平成20年度マンション総合調査」によると、調査対象となった分譲マンションの93.4%に駐車場が設置されており、そのうちの33.0%(平面式などとの併設も含む)が機械式駐車場になっています。ちょうど3物件に1物件が機械式を採用している計算です。こうした駐車スペースの立体化により、台数不足を主因とした利益格差の解消が促進されることとなりました。
ところが、この機械式駐車場を巡り、新たなトラブルが想起されようとしています。何と、兵庫県内で敷地内の機械式立体駐車場が当該マンションの購入者(区分所有者)に有償で販売されたのです。分譲駐車場が用意されたマンションというわけです。
マイカー愛好家にとっては朗報といえるでしょうが、これまでも分譲方式の敷地内駐車場を巡っては訴訟に発展する例がいくつも見受けられます。過去には最高裁まで争われたケースもあり、以降、マンション分譲に際して、分譲業者が駐車場の権利を分譲して対価を得る取引形態は必ずしも好ましいものではないとの評価が広がりました。
にもかかわらず、またしても駐車場分譲方式を採用したマンションの登場です。そこで、本コラムでは分譲駐車場に内在する問題点を洗い出すことにします。まずは本題に入る前に、参考となる判例の紹介から始めます。
マンション業者が分譲駐車場の対価を自らの利得として収受する根拠はない
騒動の舞台となったのは、北九州市内で1989年(平成元年)に分譲された総戸数31戸のマンションです。このマンションでは、マンションの分譲と同時に購入者の共有地である敷地の一画が専用使用権付き駐車場として合計25区画(1区画あたり80万円~110万円)販売され、マンション分譲業者は総額2440万円の対価を得ました。この対価に対し、管理組合は専用使用権分譲契約は無効だとして、不当利得または委任による受領を原因として金員の返還を求めました。しかし、分譲業者は営業利益として収受したものと主張し、両者の溝は埋まりませんでした。そこで、翌年(1990年)に管理組合が提訴に踏み切り、司法の場で争われることとなりました。
判決として、第一審・二審では管理組合の主張が認められ、分譲業者へ代金返還命令が言い渡されました。その理由は次の通りです。
- 建物の区分所有権とともに敷地の共有持分も本件マンション売買契約の目的とされているのだから、専用使用する権利の設定も含め、駐車場の管理使用に関する事項は共有者である区分所有者全員の意思によって決定されるべきである。
- 従って、分譲完了後は敷地について何ら権利を有しなくなる分譲業者が容喙(ようかい:横から口を出す)し得る立場にはなく、駐車場専用使用の対価を自らの利得として収受する根拠はない。
- また、分譲業者は本件マンション購入者との間で敷地の管理に関する委任を受けていたものと解されるので、特定の共有者(=分譲駐車場の購入者)のために駐車場として専用使用することを許諾した行為は委任業務の範囲に含まれ、受任者である分譲業者が受け取った分譲代金は管理組合を委任者とする委任事務処理上の預り金となり、委任者である管理組合に引き渡す義務がある。
分譲駐車場の取引は好ましいものではないが、私法上の効力までは否定できない
最高裁判所は「分譲駐車場の代金は分譲業者に帰属する」と判示した。
- 分譲業者は営利目的につき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであって、専用使用権の分譲を受けた区分所有者も、同様の認識をしていたものと解される。
- また、マンション購入者の無思慮に乗じて分譲業者が専用使用権分譲代金の名のもとに暴利を得たなど、専用使用権の分譲契約が公序良俗に反すると認めるべき事情もない。よって、その対価は売買契約書にある専用使用権分譲契約における合意の内容に従い、分譲業者に帰属するものとすべきである。
- 加えて、分譲業者が区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行なったと解することは当事者の意思に反するものであり、従って、分譲業者が区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠を欠くと言わなければならない。
この最高裁判決から読み取れることは、分譲駐車場の取引は必ずしも好ましいものではないけれど、契約自由の原則からすると、私法上の効力まで否定することはできないという司法判断です。現行法には限界があり、法律は万能ではないことを暗に物語ります。
こうした判例をもとに、次ページではマンション敷地内の立体駐車場が分譲されることで想定されるトラブルについて、管理組合の視点から考察を試みます。