自然と遺跡と村が融合した絶景「ハンピの建造物群」
シヴァ神の乗り物である聖牛ナンディーを祀るナンディー寺院の参道。奥に見えるのがマタンガの丘。ハンピではこのような幻想的な景色が延々と続く
インド中部にあるハンピはまさにそんな遺跡。デカン高原の信じがたい絶景の中にドラヴィダ様式の廃墟が建ち並び、村人たちは畑を耕し、ヤギを飼って慎ましやかな生活を送っている。今回はインドの世界遺産、ヴィジャヤナガル朝の古都「ハンピの建造物群」を紹介する。
マタンガの丘から見たハンピの絶景
マタンガの丘から北東方面を見下ろす。右下、サルの奥に見える遺跡がアチュタラーヤ寺院とその参道
ハンピの奇岩群と夕陽に燃える雲
断崖絶壁の上に丸く巨大な岩が無数に転がっている。デカン高原の荒涼たる大地の所々にバナナやヤシがポツリポツリと顔を出し、大地のまん中をトゥンガパドラ川が切り裂いている。
ハンピは12世紀以降、ヴィジャヤナガル朝の首都として栄えるが、それよりはるか以前から女神ハンパーが住む聖地として崇められてきた。「神が住まう土地」と言われて素直にうなずける。そんな景色だ。
そしてその絶景をいっそう飾り立てているのが数十を数える寺院群だ。
眼下にそびえ立つ巨大なピラミッドはヴィルパークシャ寺院の東コプラム(塔門)だ。南インドの寺院はこのように門に巨大な塔を置き、内部に神を祀るヴィマーナ(本堂)やマンダバ(拝堂)、列柱廊(チャウルティ)、プラカラ(中庭)を配置して聖域を囲った。ドラヴィダ様式だ。
ハンピの景観のすばらしさは、個々の寺院がそれぞれ聖域を持ち、独立していながら、周囲の景観に完全に溶け込んでいるところ。ヴィルパークシャ寺院は内部を外壁で区切ることで、反対に周囲の景観を神の国に仕立て上げているようにさえ見える。
ハンピの聖域ヘーマクータの丘
ヘーマクータの丘の奇岩と、高さ52mを誇るヴィルパークシャ寺院の東コプラム。ファンタジー映画の中にいるような不思議な景色
ヘーマクータの丘にたたずむ三連寺院。ここの寺院群はとてもプリミティブで力強い
ヘーマクータの丘は「丘」というよりツルツルの一枚岩。その巨岩の上に無数の奇岩と、岩を組み合わせて造った原始的な寺院群が建っている。
ハンピの遺跡のほとんどはドラヴィダ様式の洗練された寺院なのだが、ヘーマクータ寺院群はそれ以前に繁栄したホイサラ様式の建物。繊細な彫刻はないが、岩のゴツゴツした景観に原始的な寺院群がすばらしく調和している。なんて力強い。
ヘーマクータの丘。ツルツルの岩盤になぜこんな奇岩が転がっているのか?
やがてツルツルした岩肌がまっ赤な夕陽を照り返して燃え上がり、燃え尽きると今度は宇宙の青を映して寺院たちが宙に浮かび上がる。
なぜここが聖地になったのか。この景色を見れば本当に素直にうなずける。