ジャングルとマヤのピラミッド群ティカル

サルや野鳥の鳴き声が響き渡るジャングルを分け入ると、突然姿を現すマヤのピラミッド群。熱帯雨林に覆われた遺跡は数あれど、ティカルほど高いレベルでジャングルと遺跡が一体化した遺跡は他にない。

その神秘ゆえにティカルは『スター・ウォーズ エピソードIV 新たなる希望』のロケ現場になり、また、東京ディズニーシーのロストリバーデルタ内にある「クリスタルスカルの魔宮」のモデルではないかとも噂されている。今回はこのマヤ遺跡唯一の複合遺産「ティカル国立公園」を紹介しよう。

メソ・アメリカにおけるマヤ文明の誕生

均整のとれた威容を誇るティカルのII号神殿、別名「仮面神殿」。高さ38m、700年前後の建築 ©牧哲雄

均整のとれた威容を誇るティカルのII号神殿、別名「仮面神殿」。高さ38m、700年前後の建築 ©牧哲雄

エジプト、メソポタミア、インダス、ギリシア、プレ・インカ……世界にはたくさんの文明が興ったが、ほとんどは乾燥地帯に誕生した。食料が豊富な熱帯や温暖湿潤な地方では石を使用した巨大文明を必要としなかったためだと思われる。マヤ文明はモンテ・アルバン、コパン、ウシュマル、チチェン・イッツァ、パレンケ、ホヤ・デ・セレン、キリグアなど、世界遺産だけでも10を超える大文明地帯を築き上げたが、その多くが熱帯雨林の中にある。

II号神殿の斜面。II号神殿はI~V号神殿の中でもっとも小さいとはいえ、こうしてみるといかに巨大で急斜面かわかる

II号神殿の斜面。II号神殿はI~V号神殿の中でもっとも小さいとはいえ、こうしてみるといかに巨大で急斜面かわかる

メキシコからコスタリカにかけての一帯をメソ・アメリカと呼ぶ。メソ・アメリカでも、人々ははじめ食料が豊かな海岸などの熱帯地域で暮らしていたようだ。彼らが石の文化を築きはじめるのは、乾燥しているメキシコの高原地帯。稲作が大文明を生み出したように、メソ・アメリカの文明を発達させたのはトウモロコシだった。トウモロコシ(のちにはイモや豆類)の栽培に成功したマヤの人々は、より豊かな土壌を持つ海岸でも耕作を行うようになり、採取狩猟生活から定住生活へと移行して文明を勝ち取った。

耕作によって人口が増加して、首長による統治がはじまった。天候に左右される農耕の無事を祈るために宗教が強化され、同時に自然から周期を見出して天文学や数学といった科学も発達し、文字が誕生した。こうして紀元前1,500年以降、メソ・アメリカの各地で古代都市が繁栄することになる。

紀元前500前後以降、ユカタン半島の熱帯雨林地帯にも巨大な都市が興りはじめた。人口増加によってより広い土地を求めたためジャングルに進出したなどといわれているが、真相はよくわからない。ただ、熱帯雨林を焼き払って耕作し、貯水池(セノーテ)などの灌漑技術を発達させてジャングルでの生活に適応していってようだ。