古代ギリシャ最高の聖地デルフィ(デルフォイ)とその伝説

パルナッソス山に抱かれた世界遺産「デルフィの古代遺跡」

標高2457mを誇るパルナッソス山に抱かれた世界遺産「デルフィの古代遺跡」。山と渓谷・遺跡が調和した姿が神々しい

アトス山、メテオラ、デロス島、アテネのアクロポリス……ギリシャには数々の「聖地」があるが、その中でも古代ギリシャで聖地の中の聖地として崇められていたのがデルフィだ。

伝説によると、ギリシャの最高神ゼウスは世界の中心を定めるために世界の両端から2羽のワシを放ったという。この2羽がパルナッソス山の麓で出会ったことからゼウスはデルフィに「世界のヘソ」を示す聖なる石・オンパロスを設置した。
アテナ・プロナイアの神域

アポロンの神域から少し離れた場所にあるアテナ・プロナイアの神域。中央の円が円形神殿トロス

また、この地は古くから大地の神ガイアが治めるピュトーと呼ばれる土地で、ガイアの息子で巨大なヘビ(竜)の怪物であるピュトンが番人として守護していた。ピュトンはゼウスとレトの子供によって殺されるという予言を受けたことからレトを殺害しようと追いかけ回すが、レトが太陽神アポロンを出産すると、アポロンは生後4日目にして弓矢でピュトンを退治して、その遺体をオンパロスの下に埋葬したという。

アポロンはピュトンの魂を鎮めるために4年に一度ピュティア大祭を開催し、また神託所を作ってピュティアと呼ばれる巫女を集め、大地から湧き上がるピュトンの霊気を吸わせて神託(神のお告げ)を与えたという(以上の神話には異説あり)。

ギリシャのポリスが運命を託した「デルフィの神託」

アルベール・トゥルネル「デルフィ・アポロンの神域の再構築」1894年

建築家アルベール・トゥルネルが1894年に描いた「デルフィ・アポロンの神域の再構築」。中央少し上の建物がアポロン神殿

古代ギリシャ人たちはつねに神々を優先し、神々とともにあった。

たとえばアケメネス朝ペルシャがギリシャの数十倍の軍勢を率いて攻め寄せたペルシャ戦争の際、ギリシャの諸ポリス(都市)はゼウスに捧げるオリンピア大祭(オリンピック)の期間中だったため軍を派遣しなかった。このため映画『300[スリーハンドレッド]』の「300人 vs 1,000,000人」というコピーで知られる絶望的な戦いを強いられた(実際には数千 vs 数万~数十万といわれる)。

このように神に捧げる祭は何より優先されたし、重要な決定はすべて神託によって決められた。ギリシャにはいくつかの神託所があったが、その最高の地位にあったのがデルフィだ。デルフィの神託は絶対視され、ポリスが重要な決定を行う際は必ず神託をたまわった。
アテネ人の柱廊

多角形に切り出した石を複雑に組み合わせて築かれたアテネ人の柱廊。高度な建築技術が見て取れる (C) Gwhobbs

ペルシャ戦争でもどのように戦えばいいのかその方法が尋ねられた。下された神託は「木の壁を造るべし」。「木の壁」は船であると解釈され、軍船を造ってペルシャ軍と対峙すると、圧倒的な不利を覆して奇跡的な勝利を収めた(紀元前480年、サラミス海戦)。

これ以外にも、「王は息子によって殺され、息子は母と交わるだろう」というオイディプスの神話や、ギリシャ最高の知者を問うて下された「ソクラテスより賢い者はいない」という神託、アレクサンダー大王が遠征前に訪ねた逸話など、デルフィの神託には数多くの伝説が伝わっている。

アーティストとアスリートが技を競ったピュティア大祭

トロス

トロス。紀元前4世紀の建築で、直径約15mの外縁に20本、内部に10本の柱が同心円状に並べられていた

紀元前8世紀頃からデルフィでは怪物ピュトンの魂を鎮めアポロンを称えるために、4年に一度、音楽祭・ピュティア大祭が開催されていた。この祭では詩歌や演劇を披露したり、歌やフルートなどの演奏が競われた。

紀元前6世紀になると戦車競争やレスリングなどの体育競技が追加されて音楽祭&体育祭となり、ギリシャ中のポリスから参加者と観戦者が集まったという。そして勝者にはアポロンの象徴である月桂樹の葉で作られた「月桂冠」が与えられた。
スタジアム

約6500人を収容したスタジアム。短距離走などの陸上競技が開催された (C) David Monniaux

ピュティア大祭は祭であるだけでなく、ポリス同士の連帯を高める政治的な役割も担っていた。ギリシャでは多くのポリスが成立していたが、国としてまとまることはなく、ポリス同士でしばしば戦争も行われていた。ピュティア大祭期間中、参加者や観戦者はその無事が保証され、「デルフィの平和」を乱す者は厳しく処罰された。

ピュティア大祭は1000年以上にわたって続けられたが、ローマ帝国がキリスト教を国教として定めて他の宗教を禁じると、4世紀末に中止された。

世界遺産「デルフィの古代遺跡」の見所

アポロン神殿跡

アポロン神殿跡。遺構は紀元前4世紀のものだが、紀元前7世紀以前からこの場所には神殿が立っていた

紀元前8世紀頃から紀元後4世紀まで、デルフィは世界の中心であり、神々と通じる神域だった。ギリシャの諸ポリスはデルフィにさまざまな建物や道路を奉納し、聖地として整備した。その主な見どころを紹介しよう。

Googleマップ

■アテナ・プロナイアの神域
アポロン神殿を中心とした「アポロンの神域」の南東600mほどに位置する遺跡群で、参拝者はまずここを訪れた。中心となるのはトロスと呼ばれる円形の遺跡で、ここで生け贄を捧げたと考えられている。

■カスタリアの泉
巫女や参拝者たちが身を清めた泉で、ここで沐浴したのちアポロンの神域へ歩を進めた。ローマ時代にはこの水を利用して噴水も造られた。現在もパルナッソス山の湧き水が湧いており、飲むことができる。

■ジムナジウム
紀元前4世紀に建てられたパレイストラ(室内競技場)とプール・更衣室・浴室などの複合施設で、ボクシングやレスリングなどの室内競技が開催されたと考えられている。現在はその跡が残っている。
アテネ人の宝庫

アテネ人の宝庫。シフノス人の宝庫、テーベ人の宝庫、コリントス人の宝庫など、「○○人の宝庫」はそれぞれのポリスの人々が奉納した宝物庫

■アテネ人の宝庫
マラソンの起源として知られるマラトンの戦いでの勝利を記念してアテネの人々が奉納した宝庫。ドーリア式の大理石造で、神々の戦いを描いたレリーフが掲げられている。

■アテネ人の柱廊
紀元前480年のサラミス海戦での勝利を記念してアテネ人が奉納した建物。26.5×3.1mの長方形で、かつては7本の柱で天井を支え、戦利品が並べられたという。現在はイオニア式の柱が3本残るのみ。

■アポロン神殿
主神アポロンに捧げられたドーリア式の神殿で、遺構は紀元前4世紀に建てられたもの。60×24mの長方形で、長辺には15本、短辺には6本の柱が並び、主祭壇にはアポロンの石像が収められていた。現在は6本の柱が復元されている。

■古代劇場
紀元前4世紀に建設され、ローマ時代の1~2世紀に改築された円形劇場。35列に4500人を収容し、中央のアリーナで演劇や演奏が行われた。現在でも時折野外コンサートが催されている。

■スタジアム
紀元前4世紀に建設された競技場。178×26mで、主に陸上競技が行われた。観客席は山側にあり、約6500人を収容した。

■デルフィ考古学博物館
遺跡と隣接して設置された博物館で、出土品を収めている。大地の中心を表す聖石オンパロスのオリジナルや、それぞれの建物のレリーフ、ナクソスから贈られたスフィンクス像など数々の奉納品が見学できる。

デルフィへの道

聖石オンパロスのレプリカ

アポロンの神域に置かれた聖石オンパロスのレプリカ。オリジナルはデルフィ考古学博物館に収められている (C) GiannisKourbelis

■エアー&ツアー情報
ギリシャの玄関口は首都アテネ。日本からは直行便がないのでドバイやドーハ、モスクワなどを経由する。格安航空券で7万円前後から。ツアーは6日間12万円前後から。

デルフィはアテネの北西120kmに位置し、バスで2時間半~3時間前後。アテネから日帰りツアーが出ている。

■周辺の世界遺産
アテネには「アテネのアクロポリス」がある。また、「ダフニ修道院群、オシオス・ルカス修道院群及びヒオス島のネア・モニ修道院群」のダフニ修道院はアテネ近郊、オシオス・ルカス修道院がデルフィ近郊にある。

デルフィのベストシーズン

プレイストス渓谷とコリンティアコス湾の絶景

デルフィから眺めるプレイストス渓谷の絶景。遠くに見えるのはコリンティアコス湾

デルフィの気温は東京と同程度で、夏の平均最高気温は31度、平均最低気温は18度、冬は9度と2度。日本と違って夏は乾燥していて過ごしやすい。

降水量は日本と反対で、冬に多く夏に少ない。雨は11~3月に多いが、多いといっても東京の冬と同程度で降水量は少ない。

ベストシーズンは雨が少なく気候が穏やかな春~秋、4~10月。ただ、ギリシャの島々で泳ぎたい人は夏がベター。冬に入ると島々へのフェリーが極端に減るので、フェリーの旅を考えている人は要注意。

世界遺産基本データ&リンク

アポロン神殿と断崖

アポロン神殿と断崖。切り立った断崖が神々しさを煽っている

【世界遺産基本データ】
登録名称:デルフィの古代遺跡
Archaeological Site of Delphi
国名:ギリシャ
登録年と登録基準:1987年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)

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