労務管理/企業のリストラとその注意点

リストラする側も辛い……リストラする人・される人に対する心のケア

リストラは、リストラされる人だけでなく、上司や人事スタッフなど、リストラする側も辛いのです。リストラされる人の心理的な負担を軽減するための面談方法や、上司や・人事スタッフのケアについても留意点をまとめています。

本田 和盛

執筆者:本田 和盛

企業の人材採用ガイド

<目次>

リストラする側も辛い! リストラする人・される人に対する心のケア

リストラする側も辛い!

リストラは特別な人がなるのではない

有名企業のリストラが止まらなくなっています。誰もが知っているあの企業、社会的ステイタスも高く、大学生のあこがれの的だった企業でも、現在では業績不振のためにリストラが行われています。

リストラ対象者と聞くと、かつては会社のお荷物社員というイメージを持たれることが多かったのですが、最近はそうでもありません。

リストラが一般化したことで、誰もがリストラの対象となり得るようになったからです。実際、リストラの対象者としてピックアップされる人は特別な人ではなく、ごくごく普通の従業員なのです。
 

Aクラス人材は手放さない!リストラと整理解雇とは異なる

最近のリストラは、従来型の整理解雇とは異なります。整理解雇とは、人員を削減しなければ早晩会社が倒産してしまうような状態の時に、対象者を指名して行う解雇のことです。整理解雇の場合、対象者を個人レベルで指名して解雇するので、なによりも対象者選定の合理性が求められます。また整理解雇は、目先の倒産を回避するという短期的・一時的なものとして行われます。

一方最近のリストラは、企業の体質強化とか経営再建といったキーワードで行われるもので、将来に向けた企業の成長・拡大を目指した長期的・戦略的なものが多くなっています。

リストラの対象者も整理解雇のように個人名で指名するのではなく、年齢や資格等級、所属部門、職種といった一定の基準で大括りに設定されます。具体的には、「本社勤務の40歳代以上を対象に希望退職を募集する」とか、「●●工場の閉鎖に伴い500名程度の希望退職を募る」といった表現で、リストラ対象者が社内外に伝えられます。

リストラ対象者が、一定の基準で大括りに設定されるといっても、現実には大括りの基準の中で、個別具体的に対象者がピックアップされます。会社としても、Aクラス人材は絶対に手放せません。リストラ面談は該当者全員に平等に実施されますが、面談内容は当然異なります。
 

普通の人だからこそ辛い、リストラ

ストラの対象者は、今まで普通に働いてきた従業員です。他社のリストラ報道を耳にした場合でも、「まさかうちの会社がリストラすることはあるまい。まして、自分がその対象になることはあり得ない」と信じ切っていた普通の人です。自分がリストラ対象者の枠に入っていると知っただけでも、相当なショックを受けます。

特に、終身雇用制度にどっぷりと浸り、自己研鑽を怠ってきた人には非常に辛いものとなります。今までが楽だったので、このまま会社に残りたいという気持ちが強く、リストラに対して強い抵抗感を示すことが一般的です。

逆に、どこの企業でも活躍できる人材の中には、自分から辞めていく人もいます。

もちろん、今の職場が好きだから、今の仕事が気に入っているから辞めたくないと考えている人も多いです。

しかしリストラが長引くと、職場風土の悪化・職場活力の低下・生産性の低下といったネガティブ・スパイラルに陥りますので、短期間で決着をつけなければなりません。
 

リストラ面談の進め方

リストラされる人の気持ちに寄り添いたい

リストラされる人の気持ちに寄り添いたい

リストラを実施する場合、会社が決めた方針(たとえば「本社勤務の40歳代以上」といった基準など)に従い、該当する従業員全員に面談を行います。指名解雇ではありませんので、あくまでも会社が用意した特別な制度への自由意思での応募を促す、というアプローチを採ります。

会社が用意した特別な制度とは、たとえば「特別転進制度」といった名称で、一定期間内に退職を申し出た場合には退職金の上乗せを行うといったものです。

特別転進制度への応募は強制ではありませんので、「辞めろ」とか「さっさと応募しろ」といった言葉で退職を迫ることはご法度です。応募をしぶる従業員に対しても「残念だけど、君にやってもらう仕事は無くなった」「これまでのように、この職場で業務を続けてもらうことは難しい」といった言い方で理解を得るように説得します。

理解を得られない場合は、他の選択肢を検討することもありますが、通常は理解を得られるまで面談を続けることが多いようです。このあたりがリストラ面談の厳しいところです。
 

リストラ面談とリストラ対象者のケア

リストラ面談では、リストラ対象者の部下に対して、いきなり「特別転進制度に応募してはどうですか」と切り出すのではなく、会社の経営状況やこれまでの経緯を上司の口から説明し、本人のこれまでの貢献をねぎらい、上司としても非常に残念だという気持ちを伝えることが大切です。カウンセリングと同じで、部下に寄り添うというスタンスを採らないと部下は心を開いてはくれません。

実際、上司にとって部下を辞めさせることはつらいことですので、自分の気持ちに正直になって「残念だ」という気持ちを示せばいいでしょう。ただし部下の気持ちに寄り添い過ぎて、「俺が何とかしてやる」「何とか残れるように上と話をしてみる」といった発言をしてしまわないように、自分をコントロールすることは忘れてはなりません。

リストラ面談で一番辛いのは、リストラ対象者である部下ですので、できるだけ本人の言い分に耳を傾けてあげることが必要で、特に家族の問題などを抱えている場合は、できるだけ配慮してあげることが望まれます。

そういう点では、リストラ面談を職場の上司に任せるのではなく、人事担当者が同席することが原則となります。
 

リストラ面談では最後まで部下を尊重する

リストラ面談のキーワードは、「共感」と「尊重」です。上司や人事担当者が共感的な対応をしてくれることで、本人のリストラのショックも多少は和らぎます。またリストラになったのは、自分が悪いのではなく、たまたま巡りあわせが悪かったに過ぎない、という認識を本人に持たせることも重要なポイントです。誰しも、自分の能力が不足しているからリストラの対象に選ばれたとは思いたくないからです。

「君が優秀なことは俺も知っている。しかし会社の業績は悪すぎた。君の能力を活かす場はここだけでは無い。このまま業績不振のこの会社に残るよりも、新たな道を求める方がいいかもしれない」と部下に語りかけることで、部下もリストラの原因を自分以外に求めることができ、気持ちの上では、落ち着くことができます。

また退職が決まった部下に対しては再就職支援会社の利用の促しや、勤務を離れて職探し等に専念させるなどの配慮も必要でしょう。

もちろんリストラですので、きれいごとでは済まないケースも多いと思います。しかしリストラ対象者を尊重し、ケアする気持ちを持ち続けることが大切だと思います。本人も上司も人事担当者も、できれば後味の悪い思いをしたくないという点では同じです。
 

上司や人事担当者へのケアも忘れずに

またリストラされる本人だけでなく、上司や人事担当者へのケアも必要でしょう。部下を退職させた後で、その上司がリストラ対象者ではないのに退職してしまうということは、よくあります。人事担当者も、リストラの数値目標(募集枠)を達成しなければならない一方で、リストラ対象者の心のケアまで気にかけなければならず、大変です。

上司や人事担当者に対しては、「リストラは会社が行うもので、あなた達が行うものではない」「あなた達は、会社の方針をリストラ対象者に伝えているだけだ」という認識を持たせることが必要です。つまり上司や人事担当者が必要以上に罪悪感を持たないようにしてあげることです。

それでも罪悪感を持つのが普通ですので、できれば、人事担当者や上司に対して、外部のカウンセリング・サービスなどを利用する機会を提供してあげるとよいでしょう。

リストラは本人だけでなく、上司、同僚、人事担当者も巻き込んだ辛いものとなります。できるだけ避けたいものです。

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