口ぐせから気づく老年期のうつ病のサイン
不安やあせりが多く感じられたらうつ病の可能性も
たとえば、「年金でやっていけるかしら」と金銭的な不安をもらしたり、「これから私は、1人でどうしたらいいの?」とあせって子どもに何度も電話をしてくる様子をよく耳にしますが、何度も繰り返すようになったら、うつ病のサインかもしれません。
「また同じこと言ってる」「気のせいだよ」と受け流さず、しっかり話を聞いて様子を見ていき、同じ様子が続くようなら、一緒に精神科を受診して相談してみましょう。
また、老年期のうつ病には「最近、胸が苦しい」「胃の調子が悪い」といったように、体のあちこちの症状を訴える場合も多いといわれます。内科検査で異常がなくても体の症状を訴え続ける場合には、うつ病の傾向があるのかもしれません。
認知症の初期にもうつ症状が出ることは多く、早期に受診をして上のような症状がうつ病によるものなのか、認知症によるものなのかを診断してもらうことも大切になります。
考え方、行動のとり方は十人十色
高齢者の抱えるストレスは、同じ体験をしていない世代には理解しにくく、その心情に気づきにくいものです。喪失体験に直面した寂しさや不安に気づかず、他人への八つ当たりの形でぶつけたり、身近な人へのひがみや嫉妬の形で噴出させる人もいます。一方で、「他人に迷惑をかけたくない」という遠慮や、「いつまでも元気で明るい親でいたい」という希望(そうでないと失望される不安)から、本音を出せない人もいます。
さらに、ストレス解消の仕方も十人十色です。地域の人や友人と上手につながり、喪失体験を分かち合うことでストレスを軽くしている人もいますし、スポーツや趣味のサークルを探すなどして、外に向かって積極的にストレスを発散させている人もいます。その一方で、人づきあいが苦手な人、気持ちを打ち明けることが苦手な人、活動範囲を広げていくことが苦手な人も多いのです。
「もっと外に出たら?」「友だちをつくった方がいいよ」とアドバイスするのは簡単ですが、そのアドバイスを生かせる人ばかりではありません。それは高齢者ばかりでなく、どの年代でも同じだと思います。
落ち着かない様子を感じたら話を「聴く」
「寄り添う」ことが何よりの支援になる
「イライラして見えるけど、話を聞かせてくれませんか?」「何か不安があるの? よかったら話してくれる?」 こうした言葉かけで、相手が安心して話せる雰囲気をつくってあげるといいと思います。
怒りや不安、あせりや憂うつは、その思いを誰かに受け止めてもらえるだけで、とても楽になるものです。「こうすればいいのに」「どうしてこう考えないんだろう?」という思いが浮かぶかもしれませんが、その思いはそっと脇に置き、最後までその人の気持ちを知りたいという気持ちで、話を聴いてみてください。
聴いてもらえただけでもすっきりし、解決が必要なくなることもありますし、たとえ、手に負えないような話でも、聴いた人だけが抱える問題ではなく、周りや社会に支援を求めることで、よりよく解決していけることもあります。
そして、話を聴いた後には、「よく話してくれましたね」「気持ちを聞けてよかった」と、話してくれたことへの労いと感謝の気持ちを伝え、「これから一緒に考えていきましょう」と伝えるといいでしょう。不安定な高齢者の気持ちを楽にするには、こうした「寄り添い」がなにより力になるのです。