プウク式の意匠で彩られた古代都市ウシュマル
プウク式の彫刻で覆われた尼僧院の壁面。紐のような彫像がククルカン、縦に3つ並ぶ顔がチャック ©牧哲雄
尼僧院に刻まれたマヤの神像。ミミズクともいわれる ©牧哲雄
プウク式とは、石灰岩の切石を積み重ねて建造したユカタン半島独特の建築様式で、長短の切石を組み合わせることで壁面にモザイク状の神像を描き出している。壁と彫刻を一体化した見事な造形だ。
描かれているのはジャガーやカメ、フクロウといった動物や、羽を持つ蛇の神ククルカン等の伝説の神々。動物の力や自然現象が神として祀られていた様子がよく見て取れる。
そんな神像の中で際立っているのがチャックの像だ。魔法使いのピラミッドや尼僧院等の壁面にチャックの顔がビッシリと描かれている様はなんともエキゾチック。
このチャックはマヤで広く信仰されていた雨の神のこと。雨が収穫をもたらすことから豊穣の神でもあった。チャックがこれほど大切にされた理由はユカタン半島特有に地形に関係がある。
雨の神チャックとカルスト地形
矢印のようなマヤ・アーチが美しい総督の館。多数のチャック像が確認できる ©牧哲雄
魔法使いのピラミッドの階段横に彫り込まれたチャック像 ©牧哲雄
石灰岩は水によく溶ける性質があるため、虫食い状に溶けた大地はやがて陥没して深く大きな穴を作り出す。そして地下水脈とつながった穴は水をたたえて天然の井戸となる。セノーテだ。川のないユカタン半島ではセノーテはまさにオアシス。雨とこのセノーテがマヤ人の暮らしを支えていた。
水の確保が難しかったからこそ、人々は雨という現象に恵みを見出し、雨を神として祀った。アステカ文明のトラロックをはじめ、雨の神はメソ・アメリカ全体で信仰されている。