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高所得高齢者の年金はどこまで削っていいか(2ページ目)

高所得であるお年寄りの年金をカットするという意欲的な法案は、与野党の修正協議でなぜか削られてしまいました。生活に支障のないお年寄りの年金がなぜカットできないのでしょうか。

山崎 俊輔

執筆者:山崎 俊輔

企業年金・401kガイド

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高所得のお年寄りの年金をカットするステージへ

もともと、今回の国会提出法案は、残念なくらい限定的なものでした。具体的には年収850万円(所得550万円)以上ある場合にのみ、減額の対象とし、減額の程度は国民年金の国庫負担分(2分の1相当)にあたる月額3.2万円にとどまるとしていたからです(3.2万円カットされるのは年収1300万円相当の人のみ!)。これでは年金生活者の0.9%しかカバーしませんし、3.2万円のカットになる人に至っては0.3%でしかありません。全体で24.3万人、3.2万円カットになるのは8.1万人しかいない、という話です。

すべての給与所得者(正社員かどうかを問わない)の平均年収は412万円だそうです(国税庁調査より  )。つまり、その2倍の水準ではじめて年金カットされことになります。現役会社員より所得が多くても年金も全額もらえる、と考えるとすごい話です。それでも、この改正は高所得のお年寄りの年金カットを行う第一歩だと考えて評価していました。この一歩目がスタートしなければ、さらなる拡充が進むこともないからです。しかし、先送りというわけです。

ところで、高齢者については、すでに在職老齢年金という制度があり、働きながら年金を受ける場合、年金額をカットされます。しかしこれは「会社員」であった場合に厚生年金相当分(特別支給の基礎年金相当も含むが)を調整することを想定しています。自営業や個人事業主は対象外となっていないなどの問題があります。こちらについても、働く意欲を高めるため、年金をカットすべきではない、とするのが近年の議論の流れですが、筆者は逆ではないかと思います。働いて所得を得られているのですから、やはり年金はカットしていいはずなのです。

どうしたら、高所得のお年寄りの年金をカットできるのでしょうか。

高所得のお年寄りの年金のカットの仕方は

それでは、高所得のお年寄りについて年金をカットする仕組みを考えてみます。原則として掲げてみたいのは「国庫負担か保険料負担かは考えずカットする」という方針です。すでに説明したとおり、老後に困らないだけの収入があるのですから、保険料負担の部分か、国庫負担の部分かはカットの範囲を決める議論に組み入れる必要がないはずです。生活に困らない所得があるお年寄りについて、削るならどんどん削ればいいのです

また、「現役世代の平均的な所得に達する前から減額はスタートしてもいい」と思います。なぜなら、「所得+年金」の合計で現役世代の平均所得を上回らないよう調整していくとすれば、カットは早めにスタートしてもおかしくないからです。むしろ「現役世代の平均的な所得に達したら、年金額はゼロ」でもいいくらいです。どんなに譲歩したとしても、50歳代男性の所得水準に達したら年金はゼロでもいいはずです。

カットするばかりでは、カットされる側に不公平感もありますから、「年金をカットされた期間や金額に応じて、将来年金の増額を行う」ということは考えられてもいいでしょう。平均余命を勘案して20年年金をもらう場合に、5年間所得があったため無年金であった人は、完全リタイア後、15年しかもらえない年金についてベースアップされてもいいわけです。もちろん、5年分をそのまま上乗せして、3割アップというのではやりすぎになりそうですからバランスを取る必要はあるでしょう。(なお、年金はアップしない、というのもアリだと思います)

■   ■

前回は低所得者の年金加算が難しいことについて、今回は高所得者の年金カットが難しいことについて述べてみました。いずれも簡単なようで話は複雑ということです。しかし、無視していい話題ではありません

これだけ年金財政が難しい情勢にあって、現役世代の負担増はいよいよ限界に近づいていることも明らかです。だからこそ、余裕のあるお年寄りについては年金カットを真剣に考える必要があるのではないでしょうか。その意味においても、今回の三党合意であっさり削られたことは残念でなりません。

今からでもいいので、三党合意しなおして「高所得者の年金カット復活」してみてはどうでしょうか?
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