天下第一の名山を歩く その1

黄山の橋と山道

中央左に階段状の山道があり、左に小さく橋が見える。よくぞこんな所に道を!

なぜ人は絶景に惹かれるのだろう?

中国の五岳や四大名山はもちろん、ヨーロッパのメテオラやアトス山、アメリカのグランドキャニオンやメサ・ヴェルデ、ネパールのエベレストやインドのナンダ・デヴィ、ニュージーランドのトンガリロやオーストラリアのウルル・カタ・ジュタ等々、想像を絶するような絶景は単に人を癒すだけでなく、神々が住まう聖地として崇められてきた。
断崖に築かれた道

断崖に築かれた道。仙人修行が行われた仙境といわれるだけのことはある

中国随一の山岳風景を誇る黄山も同様だ。いまでこそロープウェイで山頂付近まで一気に上れるもの、黄山はひと昔前まで秘境中の秘境で、仏教の僧や道教の道志が命懸けで訪れる仙境だった。

いまでもその名残はあって、巨大な岩の下をくり抜いて道を通したり、断崖を削って階段を彫り込んだり、よくぞこんな所に道を通したと感心するばかり。 

天下第一の名山を歩く その2

早朝の黄山

早朝の黄山。霞に覆われた山々と浮かぶ雲

黄山は70以上の峰を持つ山岳群。薄く広がる霧や霞のおかげで手前の山は濃く、地平線の向こうに行くほどに淡くグラデートして、その間をぽっかり浮かんだ雲が気持ちよさそうに泳いでいる。この濃淡はまさに水墨画。

手前の山を見下ろせば、ほとんど垂直に切り立った断崖が複雑に折り重なっており、深い深い渓谷を築いている。仙人でなければとても入れそうにないそんな絶壁に、美しい松がのびのびと枝を広げている。ゴツゴツした山の険しいシルエットに松の優雅な曲線が重なり合う景色こそ、黄山特有の風景だ。 
霞の向こうに折り重なる断崖

霞の向こうに折り重なる断崖

やがて雲の一団がやってくると山々は隠されて、峰が顔を出すほかは一面が白に覆われる。遠くを見渡すと白銀の雲海だが、近くの雲に焦点を当てると、雲は滝のようにすさまじいスピードで湧き上がったり下降したりして、せわしなくその姿を変えている。

断崖に阻まれた雲たちは這うように絶壁を駆け上がり、峰を越えると風に吹かれてちぎれるように消えてゆく。
黄山四絶、雲海

黄山には四絶のひとつ、雲海がよく似合う

晴れては輝き、曇っては濃淡が浮きあがり、朝には軽やかに、夕には暗く重く、黄山は一瞬一瞬その姿を変える。 

なぜ人は絶景に惹かれるのだろう?
その答えが、ここにある。

黄山の歴史

始信峰のロープウェイ駅

黄山のパノラマ。上段中央にあるのが始信峰のロープウェイ駅

どうしてこんなへんてこな景観ができあがったのだろう? 世界の絶景や奇岩を造り上げるのはほとんどの場合、水だ。

黄山の成立は古生代にさかのぼる。2億年以上前、海底にあった黄山一帯は少しずつ隆起をはじめ、陸になると風雨の浸食を受けるようになる。地殻変動や地震等で花崗岩の固い岩盤に亀裂が入ると、その亀裂に水が入り込み、長い長い年月を経て岩は削られ、断崖が築かれていく。やがて氷河時代が到来すると、巨大な氷河が山を削り、黄山はさらに複雑な地形に彫り込まれていく。
早朝の黄山の雲海

早朝の黄山の雲海

黄山の峰でもっとも有名なのは蓮華峰・光明頂・天都峰の三大主峰で、最高峰である蓮華峰は標高1,860mに達する。

人々がこの黄山を発見すると、その驚異的な景観から聖地として道教や仏教の修行の地とされ、数多くの道観や寺院が建てられた。黄山は世界遺産リストに文化遺産・複合遺産双方の価値を持つ複合遺産として登録されているが、これはこうした文化的側面も評価されてのことだ。